2024年の農地法改正に続き、2026年は営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の制度が大きく変わる節目の年です。農林水産省は2026年4月、遮光率・地上高・収量に関する数値基準と「市町村特例」を柱とする新制度案を了承。2027年4月の施行を目指して制度整備が進んでいます。「発電事業」から「地域共生事業」へと位置づけが変わるこの改正は、EPC事業者の提案・設計・申請実務に直接影響します。制度の全体像と実務上の対応ポイントを整理します。
営農型太陽光発電とは?現状と課題

制度の基本
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は、農地の上部空間に太陽光パネルを設置しながら、下部では従来通り農業を継続する取り組みです。農地法上は支柱の基礎部分のみが「一時転用」の対象となり、期間限定の許可のもとで農業と発電を両立します。農業収入に加えて売電収入(またはFIT/FIPによる収入)の2本立てが期待でき、耕作放棄地の再生手段としても注目されてきました。
6,137件
2023年度末累計導入件数
(農水省調べ)
約1,362ha
下部農地の累計面積
24%
営農に支障ありと
報告された件数の割合
制度の普及と顕在化した問題
制度開始から約10年で導入件数は6,000件を超えた一方、農水省の調査では全設備の約24%(約1,221件)で「営農に支障がある」状態が確認されています。その内訳は、栽培管理に起因する単収減少・生育不良(多数)と、収穫実績がほとんど確認できないなど営農実態そのものに疑義があるケースに分かれます。また、地域外の事業者が地域との十分な調整を行わないまま事業を進め、利益が地域へ還元されないことへの批判も高まっています。こうした状況が、今回の大規模制度改正の直接の契機となりました。
なぜ今、制度が変わるのか

「発電事業」から「地域共生事業」へ
今回の制度改正の最大のメッセージは、営農型太陽光発電を「農業を口実にした発電事業」から、「農業を大前提とした地域共生事業」へと再定義することです。農林水産省が2026年1月に示した「望ましい営農型太陽光発電の考え方(案)」では、以下の4点が基本理念として掲げられています。
| 基本理念 | 具体的な意味 |
|---|---|
| 営農継続性 | 適切な農業が前提。収量減少のおそれがなく、設備は容易に撤去できること |
| 食料生産基盤の維持 | 将来にわたって農地としての機能が維持されること |
| 農業者の所得向上 | 発電事業者だけでなく、農業者や地権者の所得向上・経営改善に資すること |
| 地域との共生 | 地域住民との合意、利益還元、地域活性化に貢献すること |
2025年12月のメガソーラー対策パッケージが背景に
2025年12月に政府が策定した「大規模太陽光発電事業に関する対策パッケージ」も今回の改正に大きく影響しています。地上設置型の事業用太陽光は2027年度以降FIT・FIPの支援対象外とする方針が固まった一方、「地域共生が図られた形の太陽光」として営農型太陽光は引き続き支援対象に残る方向で議論が進んでいます。ただし、そのための要件が厳しくなることが条件です。
2026年新制度の全体像:3つの柱

2026年4月の有識者検討会で了承された新制度は、「営農継続性」「農業優先の設備設計」「地域との共生」の3点を核とする「望ましい営農型太陽光発電」の姿を具体化しています。
営農継続性:営農者・品目に厳しい要件
新制度では、営農者に対して地域計画(農業経営基盤強化促進法に基づく各市町村の農地利用計画)の担い手として位置づけられていること、および栽培する品目について年間50万円以上の生産・販売実績を有していることが求められます。新規就農者や販売実績の少ない農家には参入ハードルが上がります。
栽培品目については、地域で栽培され販売ルートが確立しており、原則毎年収穫可能なものに限定されます。農水省が推奨品目として示しているのは米・麦・大豆です。従来の制度下で多く見られた、榊(さかき)・樒(しきみ)などの観賞用で毎年の収穫に適さない品目は「望ましくない」と位置づけられます。
農業優先の設備設計:数値基準が法令で明示
発電設備の形状について、農業機械の円滑な利用を確保するための具体的な数値基準が示されています。
地域との共生:合意形成・利益還元・撤去費用
地域農業者や周辺住民からの合意取得、発電事業者から営農者および地権者への適正な利益還元、土地改良事業や農業規模拡大への妨げとならないこと、そして撤去費用の確保の確実性が評価項目として明記されています。撤去費用を見込んだ資金計画が必要です。
数値基準の詳細:遮光率・地上高・収量

2026年4月に了承された主な数値基準
遮光率(原則)
30%未満
垂直設置型等は日射量減少20%未満
最低地上高
概ね3m以上
農業機械の通行に支障がないこと
農業機械の通路幅
概ね4m以上
当初案の「支柱間隔4m以上」から
パブコメで修正
収量基準
地域平均比2割減以内
継続して2割超の減収は
許可不可・FIT停止も
- 上記は2026年4月時点で了承された内容です。正式な告示・施行規則改正で内容が一部修正される可能性があります。実際の申請前には農水省の最新公告を必ず確認してください。
監視体制の強化
不適切案件への対応も強化されます。国と都道府県が連携して現地調査を行う対象が、従来の「4ヘクタール超」から「2ヘクタール超」へ拡大されます。さらに衛星データを活用した営農実態の把握も検討されており、「作ったら終わり」ではなく継続的な監視のもとに置かれます。
営農実績報告書の未提出や、2年以上継続して収量要件を大幅に下回っている案件は厳格な行政指導を受け、改善が見られない場合はFIT支払い停止・最終的には設備撤去命令の対象となります。
市町村特例とは何か

全国一律から「地域主導」へ
今回の改正で最も注目されるのが「市町村特例」です。これは、農山漁村再生可能エネルギー法に基づく「基本計画」を策定した市町村が、国が一律に定める基準(遮光率30%等)に対して、地域の特性に応じた独自の基準・運用を定めることができる仕組みです。
具体的には、公的機関による複数年の試験栽培結果など科学的根拠が示された場合、遮光率や設備高さ等の数値基準に柔軟性を持たせることが可能です。例えば、コーヒーや茶、ブルーベリーなど高付加価値作物で遮光率30%超でも好収量が得られることが実証されている地域では、市町村が基本計画にその旨を明記することで、30%超の設備も認定される可能性があります。
市町村特例は単なる規制緩和ではなく、「基本計画を持つ市町村かどうか」で同じ営農型太陽光でも進めやすさが大きく変わることを意味します。基本計画が策定されていない市町村では、新制度のもとで新規の営農型太陽光発電事業を開始することができなくなります。EPC事業者にとっては、ターゲットとする農地がある市町村が基本計画を持っているかどうかが、案件成立の大前提になります。
基本計画策定の現状
しかし現実には、農山漁村再エネ法に基づく基本計画を策定済みの市町村は全国1,700市町村のうち約112市町村(推進連盟調べ)に留まっています。多くの市町村では2027年4月の施行に向けて基本計画の新設・変更を急ぐ必要があり、協議会の設置、地域住民との合意形成、農業委員会との調整など多くのプロセスをこなさなければなりません。
新たな申請フロー:農山漁村再エネ法の手続き

新制度では、従来の「農地法に基づく一時転用許可」だけでは新規の営農型太陽光発電を開始できなくなります。以下の手順を経ることが必要です。
- STEP 1
市町村が「基本計画」を策定し、「協議会」を設置する。農林漁業者・地域住民・事業者・農業委員会等が参加する協議の場。
- STEP 2
事業者が「設備整備計画」を作成・申請。発電設備の概要だけでなく、5年分の営農計画・利益還元方法・撤去費用の確保方法などを記載。
- STEP 3
協議会での協議を踏まえた市町村による設備整備計画の認定。基本計画との整合性を審査。
- STEP 4
農地法に基づく一時転用許可。認定を受けた設備整備計画が一時転用許可の前提要件となる。
- STEP 5
工事・設備設置。その後、毎年1回、農業委員会への営農実績報告が義務(継続要件)。
設備整備計画の認定を受けるためには、まず市町村が基本計画を策定している必要があります。基本計画が策定されていない市町村では、新制度のもとで新規の営農型太陽光発電事業を開始できません。これが新制度の最大のボトルネックです。農地を所有する農家や事業者から市町村に対し、基本計画の策定を働きかける動きが各地で始まっています。
一時転用許可期間:担い手は最長10年に延長可能
農地法上の一時転用許可期間は原則3年(更新制)ですが、担い手(農業生産法人・認定農業者など)が自ら所有・使用権を有する農地を利用する場合、最長10年以内に延長できます。長期計画の立てやすさが大きく改善されますが、毎年の営農実績報告の義務が条件です。
必要書類(新制度で追加されたもの)
| 書類 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 設備整備計画 | 発電設備概要・5年分の営農計画・利益還元方法・撤去対応 | 農山漁村再エネ法の様式(農水省HPで公開) |
| 設計図書 | 基礎・支柱・パネル配置を示す図面 | 新制度で追加 |
| 営農計画書 | 作物種別・収量計画・栽培方法 | 新制度で追加 |
| 営農への影響見込み書類 | 日照計算・温湿度予測を含む | 新制度で追加 |
| 撤去費用負担誓約書 | 事業終了時の撤去費用を誰が負担するか | 新制度で追加・必須 |
施行スケジュールと経過措置
- 2024年4月
農地法施行規則改正施行。許可基準が「通知ベース」から「法令ベース」へ格上げ。営農計画書・影響見込み書類・撤去費用誓約書が必須化。
- 2026年1月〜3月
農水省が「望ましい営農型太陽光発電の考え方(案)」を公表・第6回検討会に向けて議論が進む。
- 2026年4月
有識者検討会が制度見直し案を了承。遮光率30%未満・地上高3m以上・収量2割減以内・市町村特例が確定。
- 2026年7〜8月
農林水産省が3つのパブリックコメントを公開(締め切り:2026年8月22日)。農地法施行規則改正案・農山漁村再エネ法施行規則改正案・基本方針改正案の3本。
- 2026年9月末(予定)
農山漁村再エネ法に基づく基本方針の改正(告示)が施行予定。市町村の基本計画策定作業が本格化。
- 2027年4月(施行目標)
農地法施行規則等の改正が本格施行。以後、新規の営農型太陽光発電は農山漁村再エネ法の認定手続きが必須になる見込み。
- 2027年4〜8月(経過措置)
基本計画が未策定の市町村では、施行から4カ月間は従来通りの一時転用許可申請が可能(経過措置)。
- 既存の一時転用許可による案件(許可取得済み)は、一時転用許可期間が満了するまでは旧制度が適用されます。次回の更新申請のタイミングで新制度に切り替わります。
業界・学術界からの問題提起

「遮光率30%未満」への科学的反論
新制度の数値基準のうち最も論争的なのが「遮光率30%未満」の一律規制です。自然エネルギー財団は2026年8月、報告書「ソーラーシェアリングの遮光、適切な設計と栽培で効果を発揮:遮光率30%未満規制の不合理」を公表し、以下の論点を示しました。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 作物ごとに適した遮光率は異なる | 水稲・大豆・茶・コーヒー・ホウレンソウ等で日射要求量が大きく異なる。一律規制は実態に合わない |
| 遮光は品質向上効果を発揮する | 土壌水分の蒸発抑制・葉焼け防止・猛暑時の高温ストレス軽減など、遮光がプラスに働く事例も多数 |
| 「30%未満なら生育良好」に科学的根拠なし | 遮光率という単一指標での足切りは科学的合理性を欠く |
| 提言 | 遮光率ではなく、作物・設備設計・栽培方法を多角的に評価する「総合評価制度」への転換が必要 |
学術研究が示す科学的知見
千葉大学(深野准教授ら)の実地調査では、水稲(もち米)は遮光率27%の環境下で収量減少がわずか5%にとどまり、猛暑時には日傘効果で水温が2℃低下する効果も確認されました。一方、大豆は31%減、サツマイモは品種によっては40%減となるなど、作物だけでなく品種レベルでの適性評価が「収量2割減以内」の達成に不可欠であることが示されています。
山形大学・名古屋市立大学の3年間の水田実証研究では、同じ遮光率でも「光の揺らぎ(時間的変動)」が大きい設備配置の方が減収率が高いことが判明しました。「どれだけ暗いか」だけでなく、「光がどのように変化するか」という設備設計・パネル配置の工夫が収量を左右するとの科学的知見が得られており、一律の遮光率規制では捉えられない要素があることが示されています。
業界団体の懸念
ソーラーシェアリング推進連盟(会員約1,000名)は、以下の問題点を指摘しています。全国1,700市町村中、農山漁村再エネ法に基づく基本計画を策定済みの市町村が約112市町村に留まる現状では、計画未策定の市町村で事業が一切着手できなくなる懸念があります。また、「年間販売実績50万円以上」「地域計画での位置づけ」という要件が新規就農者の実質的な参入禁止につながる可能性や、煩雑な書類手続きが大企業・コンサルを持つ事業者に有利な構造を生む懸念も示されています。
また、施行まで実質1年しかない中で市町村が協議会を設置し実のある議論を重ねて望ましい基本計画を策定するには、時間が不足しているとの批判も検討会委員から上がっています。
EPC事業者が取るべきアクション

対象農地の市町村が「基本計画」を持っているか確認する
2027年4月の施行以降、新規案件は市町村の基本計画が前提になります。農地を持つ顧客・地主に対して営農型太陽光を提案する際は、まずその農地が所在する市町村が農山漁村再エネ法に基づく基本計画を策定済みか、または策定予定があるかを農業委員会・市町村の農政担当に確認します。
「市町村特例」の活用可能性を早期に調査する
遮光率30%超の設備を必要とする作物(茶・コーヒー・ブルーベリー等)を含む案件、または可動式・垂直式などの先進的な設備形式を検討する場合、市町村特例の活用が鍵になります。科学的根拠(公的機関による試験栽培データ等)を揃えた上で、市町村への基本計画策定を働きかけることが、差別化した提案につながります。
品種選定・農業専門家との連携を強化する
千葉大学・山形大学の研究が示すように、「どの作物か」だけでなく「どの品種か」「どのような設備配置か」が収量2割減の基準を左右します。EPC事業者として農業の知識だけでは対応困難な領域があり、農業試験場・農業コンサルタント・農業委員会との連携体制を整えることが、顧客の法令適合を支援する上で不可欠です。
設備設計に「農業機械の通路幅4m確保」を標準化する
新基準では支柱間隔ではなく「農業機械の通路幅4m以上」が要件です。従来の設計ルールを見直し、農業機械(トラクター等)の幅・旋回半径を考慮した設計を標準化することが必要です。設計段階からこの要件を組み込むことで、申請段階での手戻りを防げます。
「地域共生」を設計に組み込んだ総合提案を作る
新制度では、「地域住民との合意・利益還元・撤去費用の確保」が認定の評価項目です。EPC事業者として設備設計だけでなく、地権者・営農者への利益還元スキームの設計、撤去費用の積立計画、地域説明会の支援まで包括した提案ができれば、競合との差別化につながります。
既存案件の更新タイミングに先手を打つ
2024年4月以前に一時転用許可を取得済みの既存案件は、許可期間満了まで旧制度が適用されます。しかし次回の更新申請時には新制度が適用され、営農計画書・影響見込み書類・撤去誓約書などの追加書類が必要になります。既存顧客の許可満了時期を把握し、早めに更新準備の支援を提案することで、継続的な顧客関係を構築できます。
- 農地所在の市町村が農山漁村再エネ法の基本計画を策定済みかを農業委員会に確認する
- 市町村特例の活用可能性(科学的根拠の有無・市町村への働きかけ)を早期に調査する
- 品種レベルの適性評価のために農業試験場・農業コンサルとの連携体制を整える
- 設計標準に「農業機械の通路幅4m以上確保」を明示する
- 利益還元スキームと撤去費用積立計画を含む「地域共生型」の提案パッケージを整備する
- 既存案件の一時転用許可の満了時期を把握し、更新申請(新制度対応)の
支援を早めに提案する - 農水省の告示・施行規則改正の最終版を施行前に確認し、数値基準の最終内容を把握する
まとめ:
2026年制度改正のポイントとEPC事業者への示唆
営農型太陽光発電は「発電事業」から「地域共生事業」へと位置づけが変わり、厳しくなる要件を満たすことが事業の継続・新規参入の前提となります。
- 2027年4月施行予定:農山漁村再エネ法の設備整備計画認定が新規案件の必須手続きに
- 市町村の基本計画が事業の前提:未策定の市町村では新規着工不可。対象農地の市町村状況の早期確認が必須
- 数値基準が法令化:遮光率30%未満・地上高3m以上・農業機械通路幅4m以上・収量2割減以内
- 市町村特例で柔軟対応が可能:科学的根拠と市町村への働きかけにより、一律基準の例外を設けられる
- 営農者要件が厳格化:年間50万円以上の販売実績・地域計画の担い手であること。新規就農者の参入が難しくなる
- 監視強化:現地調査対象が「2ha超」に拡大、衛星監視も検討中。FIT停止・撤去命令も
- 既存案件は旧制度継続:次回の更新申請から新制度適用。更新準備の支援が顧客接点になる
制度は現在も議論継続中ですが、方向性は明確です。「農業をきちんと継続できる計画かどうか」「地域に受け入れられる事業かどうか」を軸に、農業の専門性と地域コーディネーション力を兼ね備えた提案ができるEPC事業者が、この新しい市場で競争力を発揮できるでしょう。
農水省が公表している申請様式・ガイドライン・基本方針の最新版は農林水産省公式サイトでご確認ください。
