みなさん、こんにちは!
今日は、日本のエネルギー政策が「脱炭素」から「安定供給」へと大きく舵を切りつつある現状について共有します。
2020年の菅義偉首相による「2050年カーボンニュートラル宣言」からわずか5年、エネルギーを取り巻く情勢は激変しています。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機、米中貿易摩擦の激化、トランプ再選によるパリ協定離脱、そしてAI普及による電力需要の急増——。
第7次エネルギー基本計画では「原発依存度の引き下げ」という文言が消滅し、天然ガスは「カーボンニュートラル実現後も重要なエネルギー源」と明記されました。専門家からは「50年CO2ゼロ」の非現実性が指摘され、脱炭素から安定供給重視への政策転換を求める声が強まっています。
JERAが直面する「曲芸のようなオペレーション」
日本最大の燃料・火力発電企業であるJERAの可児行夫会長・グローバルCEOは、エネルギー供給の難しさについて「われわれのようなエネルギー企業は、在庫がないから供給できませんとは絶対に言えない。どんな事態が起きても、供給を途切れさせてはいけない」と語ります。
JERAは日本の電力供給の3割を担い、液化天然ガス(LNG)を燃料とした火力発電を安定供給の要としています。しかし、そのオペレーションは年々難しさを増しています。
太陽光発電の導入拡大による稼働率変動の激化
電力需要の多い夏冬と少ない春秋とで火力発電所の稼働率に開きがある。
最近では太陽光発電の導入拡大とともに、季節や天候による稼働率の差がますます広がっている。
LNG在庫の制約
LNG基地のタンクの容量は7〜10日分しかない。
長期契約を締結して買い取ったLNGは、使い切れない場合に備えて販売先を見つけておかなければならない。
発電所や燃料部門のスタッフはまさに曲芸のようなオペレーションに携わっている。
以前は燃料の大量備蓄が可能な石油火力発電がバッファーの役割を果たしましたが、設備の老朽化や電力需要の減少傾向により多くが休廃止に追い込まれました。
そして太陽光発電など出力変動の大きい再生可能エネルギーの増大に伴い、調整力の役割を担うLNG火力発電は設備への負荷が大きい起動・停止を繰り返さざるをえなくなっています。
この状況は、「再エネが増えるほど、火力発電への負荷が増大する」という構造的矛盾を浮き彫りにしています。
目まぐるしく変わる世界のエネルギー情勢
2020年の菅義偉首相による「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、エネルギーを取り巻く情勢は劇的に変化しました。
- 2020年10月:菅首相「2050年カーボンニュートラル」宣言
脱炭素社会実現に向けて政策の舵を切り、再エネシフトや水素・アンモニアなど脱炭素エネルギーの実用化を最大の柱とする。
- 2021年:第6次エネルギー基本計画
2030年度の電源構成に占める再エネの割合を36〜38%に引き上げ(従来目標22〜24%から)、水素の供給量を2050年に2000万トンへ大幅拡大。「水素社会の実現」の機運が高まる。
- 2022年2月:ロシアのウクライナ侵攻
LNG価格が急騰し、ヨーロッパを中心に世界でエネルギー危機が発生。エネルギーや鉱物資源の確保という経済安全保障が政策の前面に押し出される。
- 2023年2月:GX基本方針閣議決定
再エネのみならず原子力発電も脱炭素効果の高い電源として「最大限活用」の方向性が示される。
- 2024年11月:トランプ氏再選
第2次トランプ政権は気候変動自体を否定し、パリ協定から再離脱、再エネやEVへの支援打ち切り・縮小、化石燃料大増産の号令を出す。
- 2025年2月:第7次エネルギー基本計画閣議決定
- 天然ガスについて「カーボンニュートラル実現後も重要なエネルギー源」と明記
- 「原発依存度の引き下げ」という第6次計画の文言が消滅
- 代わって「最大限活用」という言葉が登場
電気事業連合会の林欣吾会長は「電力需要の増加が見込まれる中で『再エネも原子力も火力発電も必要だ』」と語っており、政策の基調が明確に変化しています。
AI普及が変える電力需要の前提
政策転換の背景には、AI普及による電力需要の急増という新たな現実があります。
米国の電力消費は現在日本の約4倍ですが、今後10年間でさらに「日本一国分」に相当する需要が上積みされると見込まれています。米国はこのほとんどをガス火力発電で賄う計画です。
中国も米国に匹敵する規模でデータセンターを増設し、その電力は大半が石炭火力で供給されることになります。
短期間で電力供給を増やす現実的な選択肢
| 原子力 | 建設に時間がかかり、短期間では間に合わない |
| 再生可能エネルギー | 天候に左右され、24時間365日稼働するデータセンターに安定かつ安価な電力を供給できない |
| 火力発電 | 現実的な唯一の選択肢 |
日本でも、それまで減少が見込まれていた電力需要が2030年代に向けて増加のトレンドにあるとの見通しが示されています。「電力需要は減少する」という前提で進められてきた脱炭素政策の根本的な見直しが迫られています。
「世界の3%」の日本だけが突き進むGXの非現実性
中国、米国、インド、ロシアの4カ国だけで、世界のCO2排出の約半分を占めています。これらの国々はいずれも、化石燃料を活用し、安全保障と経済成長を達成しようとしています。
一方で、日本のCO2排出は「世界全体のわずか3%」に過ぎません。にもかかわらず、日本だけが「官僚的な慣性」のままにGXに突き進んでいるのが現状だと指摘されています。
専門家は「26年には、日本はGXから脱却し、火力発電を軸とした安定的で安価な電力供給体制を整えるよう、かじを切らねばならない。さもなくば、日本は『AI競争においても敗北する』ことになる」と警告します。
GXの道筋が困難を極める現実
日本政府はGX政策を堅持し、脱炭素社会への取り組みを続けるとしていますが、その道筋は困難を極めています。
三菱商事の洋上風力撤退
三菱商事が洋上風力発電で落札した3案件から撤退するなど、大手企業でさえGX事業からの撤退を余儀なくされています。
浜岡原発のデータ不正
原発を脱炭素電源の中心にとの政府方針がある中、中部電力浜岡原発の新規制基準適合性審査で、基準地震動策定の前提となるデータの選定において不正が判明。
政府方針にも水を差す形になっています。
JERA会長は「火力発電燃料としての水素・アンモニアの導入、洋上風力発電、いずれも近年の世界的なインフレーションによるコスト高が大きな壁になっている。それでも歯を食い縛って事業を実現させる」と語りますが、その理由は「今、脱炭素のサプライチェーンをつくっておけば、将来、事業環境が変わったとき取り組みを加速するのが容易になる」というものです。
つまり、脱炭素のトレンドはなくならないとの見立てですが、それは「将来的な取り組み」であり、「現在の主力」ではないことを示唆しています。
エネルギー・鉱物資源の「武器化」という新たなリスク
政策転換のもう一つの背景には、大国がエネルギーや鉱物資源を「武器化」する動きが鮮明になっていることがあります。
中国による重要鉱物の掌握
中国は重要鉱物のサプライチェーンを掌握し、多くの鉱物について輸出規制を行っています。
エネルギー関連の重要鉱物における中国の精錬シェアは、ガリウム、黒鉛、レアアース、リチウムなど多岐にわたり、圧倒的な地位を築いています。
日本への直接的な輸出制限
中国は2026年1月、日本を標的にしてデュアルユース(軍民両用)製品の輸出制限に踏み切ったと発表。その中にはレアアースなどエネルギー関連の重要鉱物も含まれているとみられます。
クリーンエネルギー機器の生産実績でも中国が圧倒的シェア
太陽光パネル、風力タービン、電池など主要製品で中国が圧倒的なシェアを握っています(2024年)。
エネルギー自給率が低く、安定供給に弱点を抱える日本にとって、「脱炭素」の名の下に中国製パネルへの依存を深めることは、エネルギー安全保障上の重大なリスクとなっています。
EPC事業者が直面する政策不確実性
この政策転換は、EPC事業者に構造的な不確実性を突きつけています。
政策の方向性が揺れ動く
- 第7次エネルギー基本計画では再エネを「主力電源化」と掲げる
- 一方で天然ガスを「カーボンニュートラル実現後も重要」と明記
- メガソーラー支援廃止が決定
- 専門家からは「GXからの脱却」を求める声
「脱炭素」という大義名分の揺らぎ
- 世界の主要国が化石燃料を活用して経済成長を追求
- 日本のCO2排出は世界の3%に過ぎない
- 国民は「50年CO2ゼロ」の非現実性に気づき始めている
- 「環境に優しい」とされてきた太陽光に厳しい視線
GX事業の困難化
- 三菱商事の洋上風力撤退
- 浜岡原発のデータ不正
- インフレによるコスト高
EPC事業者にとって、「脱炭素」という追い風を前提とした事業モデルが根底から揺らぐ状況です。
EPC事業者に求められる5つの戦略的適応
エネルギー政策の不確実性が高まる中、EPC事業者には柔軟な事業戦略が求められます。
政策変動リスクの顧客への明示
「50年CO2ゼロ」の非現実性が専門家から指摘され、メガソーラー支援廃止が決定されるなど、政策の方向性は大きく揺れています。
顧客に対して、FIT/FIP支援の終了だけでなく、脱炭素政策全体が転換する可能性があることを明示し、政策変動リスクを織り込んだ事業性評価を提供する必要があります。
特に長期事業計画を前提とする案件では、「現行政策が継続する」という楽観的前提ではなく、「政策が大きく変わる可能性」を織り込んだシナリオ分析が不可欠です。
系統負荷軽減を前提とした設計
JERAが直面する「曲芸のようなオペレーション」は、太陽光の無秩序な拡大が電力システムに与える負荷を示しています。
EPC事業者として、以下の対応を標準化することで、電力会社や系統運用者からの信頼を獲得できます。
- 蓄電池との組み合わせ:出力変動を平準化し、火力発電の起動・停止頻度を削減
- 出力制御対応:系統運用者の指令に柔軟に対応できる設計
- 需給調整市場への参加:調整力として価値を提供し、収益源を多様化
火力発電との共存を前提とした提案
専門家が指摘するように、AI普及による電力需要急増の中で、火力発電は「安定供給」の要であり続けます。
EPC事業者として、「火力発電を代替する」という対立構図ではなく、「火力発電と共存し、調整力の負担を軽減する」という協調的な提案が現実的です。
特に自家消費型案件では、
- ベースロード電源として火力を活用
- ピーク対応として太陽光を位置づける
- 両者の最適な組み合わせを提案
サプライチェーンリスクの管理強化
中国がレアアースなど重要鉱物の輸出制限に踏み切り、日本を標的にしたデュアルユース製品の輸出制限を発表するなど、大国がエネルギー・鉱物資源を「武器化」しています。
太陽光モジュールや蓄電池の調達においても、サプライチェーンリスクが顕在化する可能性があります。
- 複数調達先の確保:特定国への依存度を下げる
- 在庫の適正化:供給途絶リスクに備えた在庫戦略
- 代替品の検討:国産品や第三国製品への切り替え可能性
「安定供給」を軸とした新たな価値提案
「CO2削減」だけでなく、「エネルギー自給率向上」「電力コスト削減」「BCP(事業継続計画)対応」など、安定供給に貢献する側面を前面に出した提案が、政策変動リスクに強いポジショニングとなります。
具体的には、
- 自家消費型:外部電源への依存度を下げ、エネルギー自給率向上
- BCP対応:災害時の電力供給確保
- コスト削減:長期的な電力コスト低減
- 国産技術の活用:ペロブスカイトなど国産次世代技術への移行準備
日本のエネルギー政策は、「脱炭素」から「安定供給」へと大きく揺れ動いています。
世界の主要国が化石燃料を活用して経済成長を追求する中、日本だけが「50年CO2ゼロ」に固執することの非現実性が指摘され、政策転換の可能性が高まっています。
EPC事業者にとって、これは政策の不確実性が最も高い困難な時期です。しかし同時に、「脱炭素」という追い風を前提とした事業モデルから、「安定供給」「経済性」「系統協調」を軸とした新たな価値提案へと転換できる企業が、政策変動の波を乗り越えることができます。
