みなさん、こんにちは!

今日は、経済産業省が開始した「GX戦略地域」の公募と、データセンター投資を巡る相反する動きについて共有します。

日本政府は脱炭素電源と工場・データセンターの集積を支援し、2026年夏に自治体を選定、全電力を再エネ・原発から調達する投資を最大半額補助します。5年で2,100億円という具体的な予算措置が伴い、地方に新たな産業拠点を創出する試みが始まりました。

一方、海外ではGoogleがデータセンター企業Intersectを7,500億円で買収し、テキサスに6.2兆円のAIインフラ拠点を計画する一方、IBMのCEOは「1GW規模で約12.4兆円必要、現在のコスト水準では利益を出せるわけがない」と断言し、データセンター投資の経済合理性に疑問を呈しています。

再エネとデータセンターという組み合わせが、日本のエネルギー政策と産業戦略の焦点となる中、地域住民の反対、電気代高騰、環境負荷という課題も浮き彫りになっています。

GX戦略地域公募:2026年夏選定、最大半額補助

経済産業省は12月23日、再生可能エネルギーなど脱炭素電源と産業競争力の高い工場やデータセンターの産業集積に向けて、受け皿となる自治体の「GX戦略地域」公募を開始しました。

審査段階的に審査を進める
選定発表2026年夏
支援内容インフラ整備の補助、規制緩和、企業誘致への協力
公募の概要

選ばれた自治体は、使わなくなった石油化学コンビナートを新たな産業拠点に変えるための費用補助や、送電網などのインフラを速やかに整備するための支援も受けやすくなります。

2026年からは、全ての電力を再エネや原子力発電所から調達して動かす工場やデータセンターの投資を、最大で半額補助する制度の公募も始めます。

前回の記事で取り上げた通り、政府は2026年度から5年間で2,100億円を充当し、中堅・中小企業は投資費用の最大2分の1、大企業は同3分の1を補助します。電源立地地域への企業誘致を促すため、立地地域に進出したり、再稼働した原発の電源を活用したりした場合、支援をより手厚くします。

この施策の狙いは明確です。自治体と企業それぞれを支援することで、地方に脱炭素電力を活用した新たな産業拠点をつくることです。再エネ電力100%調達を求められる大手企業にとって、この支援は工場やデータセンターの立地選定において重要な判断材料となります。

Google7,500億円買収:AIインフラ競争の加速

Googleの親会社Alphabetが、データセンター&エネルギー企業のIntersectを買収したことを発表しました。買収額は47.5億ドルで、日本円でおよそ7,500億円です。

買収後も、IntersectはIntersectとして、Alphabet/Googleとは別名での運用を継続するとのこと。この買収の背景には、AI開発でかつてないほど急ピッチで求められているデータセンター建設があります。

Googleは現在、テキサス州のArmstrongとHaskellの街にAIインフラ拠点を計画中です。その予定投資額は400億ドル(約6.2兆円)にもなります。今回の買収で、Googleのデータセンター建設はいっそう加速しそうです。

この巨額投資は、GoogleがAI競争で優位を確保するために、データセンターインフラを戦略的に重要視していることを示しています。メタ(Meta)の最近の決算説明会でも、「キャパシティ」やAIの「インフラストラクチャー」といった言葉が繰り返し使われ、各社がデータセンターへの投資を加速させています。

IBM CEO「利益を出せるわけがない」:経済合理性への疑問

Googleの巨額投資とは対照的に、IBMのCEOアービンド・クリシュナ氏は、データセンター投資の経済合理性について極めて懐疑的な見解を示しました。

クリシュナ氏はポッドキャスト「Decoder」で、データセンターへの設備投資について、投資に見合うリターンを得られる見込みは「ほぼない」と結論づけました。

「将来のことは推測に過ぎないため、あくまで現在のコストに基づいた概算だが」と前置きしたうえで、1GW規模のデータセンターをフル稼働させる設備を整えるには約800億ドル(約12兆4,400億円)かかると述べました。

さらに衝撃的なのは、投資規模が拡大した場合の試算です。

「設備投資が8兆ドル(約1,244兆円)に達すると、利息を払うだけで約8,000億ドル(約124兆4,000億円)の利益が必要になる」とクリシュナ氏は指摘しました。
データセンターの収支を”どんぶり勘定”レベルでざっと計算しただけでも、現在のコスト水準では「利益を出せるわけがない」と断言したのです。
クリシュナ氏は、現在のAI技術がAGI(汎用人工知能)につながる可能性について懐疑的で、その確率をわずか0〜1%と見積もっています。

GoogleやMetaがデータセンターに巨額投資を続けるのは、AGI実現への賭けですが、IBMのCEOはその確率を極めて低く見積もっており、「合理的な事業判断」ではなく「将来への賭け」であることを示唆しています。

データセンター建設への反対:地域との対立構造

データセンター建設ブームは、一筋縄ではいきません。各地で地域住民からの反対の声が上がっています。

AIは莫大な電力消費で知られており、次のような問題が指摘されています。

  • データセンター建設で周辺電気代が高騰したという意見
  • データセンターによる空気汚染での健康被害の可能性を指摘する研究

地域住民からはデータセンター誘致に反対する声もあがり、電力や水の使用量を制限するなど、新たに規則を設けようとする動きも見られています。

バーニー・サンダース氏は自身のXで「民主主義に追いつく機会を与えるべきだ」とポストし、AI技術によってみんなが恩恵を受けられるようにすべきだとうったえかけています。

この反対運動は、かつての太陽光発電所を巡る地域住民と事業者の対立と同じ構造です。莫大な電力消費により周辺電気代が高騰し、健康被害の可能性が指摘される中、地域住民が使用量を制限する新規則を設ける動きは、「地域にメリットがない大規模施設」への反発です。

環境省が再エネ調達時に環境破壊チェックを義務化し、自民党がメガソーラー支援廃止を決めたのと同じように、データセンターも「環境負荷」「地域への影響」を無視した開発は受け入れられなくなっています。

「自治体公募」という地域共生型アプローチ

経産省がGX戦略地域で「自治体の公募」という形を取るのは、こうした地域との対立構造を回避するための戦略的判断です。

従来の産業誘致は、国や企業が主導し、地域にトップダウンで押し付ける形が多く見られました。しかし、この方式は地域住民の反発を招き、事業が頓挫するリスクがあります。

GX戦略地域の公募では、自治体が地域住民の合意を得たうえで誘致する仕組みであり、トップダウンではなくボトムアップの地域共生型開発を目指す意図もあると思われます。

  • 雇用の創出
  • 地域経済への貢献(地域の再エネ発電所からの電力調達など)
  • インフラ整備による地域の利便性向上
  • データセンターの余熱活用(温水プール、温室など)

こうした地域共生型の設計が、選定の重要な判断材料となるでしょう。

Googleの巨額投資とIBMの懐疑論:どちらが正しいのか

GoogleがIntersectを7,500億円で買収し、テキサスに6.2兆円のAIインフラ拠点を計画する一方、IBMのCEOが「利益を出せるわけがない」と断言する状況は、データセンター投資の経済合理性を巡る根本的な問いを投げかけています。

GoogleやMetaの投資判断は、次の前提に基づいています。

  • AI技術の急速な進化
  • AGI(汎用人工知能)実現の可能性
  • AIサービスの爆発的な需要拡大
  • データセンター容量の戦略的重要性

一方、IBMの懐疑論は、次の現実を指摘しています。

  • 現在のコスト水準では投資回収が不可能
  • AGI実現の確率は0〜1%と極めて低い
  • 莫大な電力消費による環境負荷
  • 利息負担だけで124兆円の利益が必要という非現実性

この対極的な見解は、データセンター投資が「合理的な事業判断」ではなく「将来への賭け」であることを示唆しています。Googleは賭けに出て、IBMは賭けを避けるという、企業戦略の違いが鮮明です。

日本のGX戦略地域が成功する条件

日本のGX戦略地域が成功するためには、次の条件を満たす必要があります。

01

脱炭素電源の安定確保

全ての電力を再エネや原発から調達することが補助の条件であり、自治体は脱炭素電源を安定的に確保する必要があります。

必要な取り組み

  • 地域の再エネ発電所からの調達体制構築
  • 系統用蓄電池の併設による安定供給
  • 再稼働した原発の電源活用
  • オンサイトPPA、オフサイトPPAの整備
02

インフラ整備の迅速化

データセンターや工場の誘致には、送電網などのインフラ整備が不可欠です。GX戦略地域に選定されれば、インフラ整備の補助を受けられるため、自治体は迅速な整備計画を策定する必要があります。

03

地域住民の合意形成

地域住民の反対を避けるには、次の取り組みが重要です。

重要な取り組み

  • 地域にメリットをもたらす設計(雇用創出、経済貢献)
  • 電力消費による地域への影響の最小化
  • 環境負荷の低減(脱炭素電源の使用、余熱活用など)
  • 丁寧な説明と透明性の高いコミュニケーション
04

経済合理性の検証

IBMのCEOが指摘するように、データセンター投資の経済合理性は不透明です。自治体は、誘致する企業の財務基盤、長期的な事業計画、投資回収の見通しを慎重に見極める必要があります。
特に、1GW規模で約12.4兆円という巨額投資が必要とされる中、企業が破綻するリスクも考慮すべきです。

EPC事業者としての戦略的機会

GX戦略地域の公募は、EPC事業者にとって大きな事業機会を示唆しています。

01

自治体との連携による案件開拓

2026年夏に選定される自治体は、インフラ整備補助・規制緩和を受けられるため、データセンターや工場の誘致を積極的に進めます。

提案すべき内容

  • 再エネ・原発100%調達を実現する太陽光発電+LDES
  • オンサイトPPA、オフサイトPPAの事業スキーム
  • 系統用蓄電池の併設による安定供給
  • 脱炭素電源の総合的なソリューション

自治体に対して、GX戦略地域の選定条件を満たす支援を提案することで、選定後の案件受注につなげることができます。

02

最大半額補助を活用した提案

2026年から開始される工場・データセンター投資への最大半額補助は、顧客の初期投資負担を大幅に軽減します。

補助制度を前提とした提案

  • 中堅・中小企業:投資費用の最大2分の1補助
  • 大企業:投資費用の同3分の1補助
  • 立地地域進出や原発活用でさらに手厚い支援

この補助制度を前提とした事業スキームを提案することで、受注可能性が高まります。特に、補助金申請のサポート、事業計画の策定支援なども付加価値として提供できます。

03

データセンター特有の電力需要への対応

1GW規模のデータセンターに約12.4兆円という巨額投資が必要とされる背景には、莫大な電力消費があります。

必要な技術・ソリューション

  • 系統用蓄電池の併設
  • 出力制御対策としての自家消費型太陽光
  • LDES(長時間エネルギー貯蔵)技術の活用
  • 安定的な電力供給を実現する総合的なソリューション

データセンターの電力需要は24時間365日安定供給が求められるため、単なる太陽光発電だけでなく、蓄電池との組み合わせが不可欠です。

04

地域共生型の設計提案

地域住民の反対を避けるには、電力消費による地域への影響を最小化し、地域にメリットをもたらす設計が不可欠です。

地域共生型のスキーム例

  • データセンターの余熱を地域の温水プールや温室に供給
  • 地域での雇用創出
  • 地域の再エネ発電所から電力を調達し地域経済に貢献
  • 地域インフラ整備への協力(道路、公共施設など)

こうした地域共生型の提案は、自治体がGX戦略地域に選定される際の重要な要素となります。

05

経済合理性の慎重な見極め

IBMのCEOが「利益を出せるわけがない」と断言する中、データセンター投資の経済合理性は不透明です。

案件に関わる際のチェックポイント

  • 事業者の財務基盤は健全か
  • 長期的な事業計画は現実的か
  • 投資回収の見通しは立っているか
  • 破綻リスクはどの程度か
  • 代金回収条件は適切か(前払い、分割払いなど)

特に、巨額投資が必要なデータセンター案件では、事業者が破綻した場合の代金未回収リスクを考慮し、契約条件を慎重に設定する必要があります。

再エネとデータセンター:新しい産業拠点の可能性

経産省のGX戦略地域公募は、再エネとデータセンターを組み合わせた新しい産業拠点を地方に創出する試みです。

2026年夏の選定に向けて、自治体は脱炭素電源の確保、インフラ整備、地域住民の合意形成を進めます。再エネ・原発100%調達を条件とした最大半額補助は、Scope3削減圧力への対応としても機能し、大手企業の工場・データセンター誘致を促します。

一方、GoogleがIntersectを7,500億円で買収しテキサスに6.2兆円のAIインフラ拠点を計画する中、IBMのCEOは「1GW規模で約12.4兆円必要、利益を出せるわけがない」と断言し、データセンター投資の経済合理性は不透明です。この対極的な見解は、データセンター投資が「合理的な事業判断」ではなく「将来への賭け」であることを示唆しています。

再エネとデータセンターという組み合わせは、日本のエネルギー政策と産業戦略の焦点となりつつあります。この大きな転換点において、いかに早く準備を進めるかが、2026年夏の選定後の市場立ち上がり時の競争優位性を左右します。