みなさん、こんにちは!
今日は、自民党がまとめた太陽光政策の提言と、政府が決定したGX戦略地域への投資支援について共有します。
注目されていたメガソーラーのFIT・FIP廃止は「新設案件のみ」が対象で、既認定案件は継続支援されることが明確になりました。事業者への影響は限定的となる一方、電気事業法による規制強化と環境アセスメント対象の拡大により、不適切な開発を事前に排除する仕組みが構築されます。
そして最も重要なのは、ペロブスカイト太陽電池の建物設置推進や再エネ推進区域の設定支援など、「地域共生型への支援重点化」が明確に打ち出された点です。政府は原発・再エネを活用する企業に向けて、5年で2,100億円の投資支援を決定しており、野立てから屋根置きへという政策転換が制度的に裏付けられました。
「新設案件のみ廃止」という現実的な着地点
自民党の合同部会が12月18日に取りまとめた太陽光政策の提言は、次の3つの柱で構成されています。
- 不適切事案に対する法的規制強化
- 地域の取り組みとの連携強化
- 地域共生型への支援重点化
最も注目されていたFIT(固定価格買取制度)とFIP(フィード・イン・プレミアム)の廃止については、提言の中で「メガソーラーについては、技術の進展状況等を踏まえればFIT/FIP制度による導入促進を行う必要性は既に乏しく、その導入を進めることによる地域共生上の課題等も勘案し、今後の支援について廃止を含めて検討を行うこと」と記載されました。
当初、既認定案件も含めた遡及適用が懸念されましたが、提言には「関係法令違反を覚知したFIT/FIP認定事業については、速やかに交付金一時停止措置を講じる等、引き続き、FIT/FIP制度の厳格運用を行うとともに、必要な体制強化を図ること」との文言があり、既認定の稼働済み案件に関しては引き続き支援対象とすることが前提になっています。
この「新設案件のみ廃止」という判断は、投資協定との整合性を考慮し、既得権益を保護しつつ形骸化した制度を整理するという、現実的な着地点と言えます。すでに認定を取得している事業者にとっては、権利が保護されることで事業継続の見通しが立ち、太陽光発電事業者への影響は限定的になりました。
すでに形骸化していたFIT・FIP制度
実は、FIT・FIP制度はすでに大きく形骸化していました。12月1日に公表された250kW以上の太陽光を対象にしたFIP認定の入札では、次のような結果となりました。
| 募集容量 | 163MW |
| 落札量 | 約75MW |
| 加重平均落札価格 | 7.13円/kWh |
| 今年度の卸電力市場スポット価格 | 10〜12円/kWh |
| オフサイトPPAの契約価格相場 | 14円前後/kWh |
落札価格が市場価格を下回る状況では、FIP認定の意味は大きく変化しています。事業者がFIP認定を取得するのは、一般送配電事業者と連系協議を進めて系統連系を実現するための手段として、あるいはPPA契約先が倒産した場合などの「保険」としての意味合いを持たせているからです。
このように事業用太陽光の開発においては、FIT/FIP制度が実質的な価格支援としての機能を失い、系統連系の手段や万が一の保険という副次的な役割しか果たしていませんでした。今回の「廃止」の対象が新設案件となったことで、すでに形骸化していた制度が整理されるという、ある意味で自然な流れと言えます。
ただし、経産省にとってはFIT/FIP制度の廃止により、メガソーラーの新規開発を直接把握する手段がなくなるという運用上の課題が残ります。形骸化していた制度を継続してきた背景には、開発事業者を監視・管理する手段としての意味もあったからです。
電気事業法と環境アセス拡大という新たな規制枠組み
FIT/FIPを使わずPPAスキームだけで導入される案件への対応は、経産省が最も悩んだ課題でした。北海道の釧路で問題になっているメガソーラー開発もPPAによる売電が前提になっており、従来の枠組みでは規制が難しい状況でした。
今回の提言では、電気事業法を積極活用する方針が明確になりました。
具体的には次の内容が盛り込まれています。
- 電気事業法に基づき、アセスメントに沿った指導を徹底すること
- 事業の安全性確保の観点から、保安規制を強化すること
さらに重要なのが、環境影響評価法によるアセスメント対象の拡大です。
現行制度
- 連系出力40MW以上のメガソーラー:すべて対象
- 環境影響の大きい30MW以上:一部対象
今後の方向性
- 30MW未満のメガソーラーも対象にする方向で検討
法令アセスは調査に要する期間が複数年に及ぶため、条例アセスに比べると開発期間が長くなり、それが開発コストの増加につながります。これは実質的に、小規模案件への参入障壁を高めることで、不適切な開発を事前に排除する効果を持ちます。環境省が再エネ調達時に環境破壊チェックを義務化したのと同じ方向性であり、環境配慮を前提としない開発は今後、極めて困難になります。
ペロブスカイトと再エネ推進区域:地域共生型への明確なシフト
提言の第3の柱「地域共生型への支援重点化」では、具体的な施策が明記されました。
ペロブスカイト太陽電池の建物設置推進
提言の中にペロブスカイト太陽電池の建物設置推進が明確に記載されたことで、次世代太陽電池の社会実装が政策的に後押しされることになります。福島県郡山市のFREA実証拠点が来夏稼働し、県内企業対象のセミナー・講習会が開催される流れと完全に同期しており、国の政策と地域の実証が連動する理想的な展開です。
再エネ推進区域の適切な設定支援
地球温暖化対策推進法に基づく再エネ推進区域の適切な設定支援が盛り込まれました。これは環境省が主導する再エネのポジティブゾーニングを指しており、これまで運用が停滞していた制度を活性化させる意図があります。
ポジティブゾーニングとは、再エネ導入を推進すべきエリアと保全すべきエリアを明確に区分し、適切な場所への適切な開発を促す仕組みです。「多くの自治体で再エネ推進エリアが明確になっていくことになれば、再エネ開発を進めやすくなる」という指摘は重要で、乱開発を抑制しながら、推進エリアでは開発をスムーズに進められる環境が整います。
これは単なる規制強化ではなく、「やるべきでない場所での開発を排除し、やるべき場所での開発を促進する」という、メリハリのある政策転換です。野立てから屋根置きへ、環境破壊型から地域共生型へという方向性が、制度的に裏付けられたと言えます。
GX戦略地域への5年で2,100億円投資支援
政府は12月22日のGX実行会議で、原発や再生可能エネルギーなど脱炭素電源を活用する企業の投資を支援する方針を決定しました。2026年度から5年間で2,100億円程度を充当します。
支援の概要
- 対象:脱炭素電源の立地地域(GX戦略地域)
- 公募開始:年内
- 選定時期:来年夏をめど
支援条件と補助率
- 条件:原発や再エネ由来電力を100%使うこと
- 中堅・中小企業:投資費用の最大2分の1補助
- 大企業:投資費用の同3分の1補助
- 優遇措置:立地地域進出や再稼働原発の電源活用でさらに手厚く支援
この施策は、Scope3削減圧力が高まる中で再エネ電力100%調達を求められる大手企業にとって、重要な選択肢となります。工場やデータセンターの立地選定において、再エネ由来電力を安定的に調達できるかどうかが決定要因となる時代において、GX戦略地域は企業誘致の強力なインセンティブとなります。
また、この支援策は単に企業の脱炭素化を支援するだけでなく、地方の再エネ資源を活用した地域経済の活性化という側面も持ちます。原発立地地域や再エネ資源が豊富な地域が、エネルギー供給地としての価値を再評価され、企業誘致による雇用創出や経済効果が期待されます。
EPC事業者としての戦略的対応
今回の政策変更は、EPC事業者にとって明確な戦略転換を求めるものです。
既認定案件の確実な実行
FIT・FIP廃止が新設案件のみであるため、既認定案件は継続支援されます。すでに権利を持つ案件を着実に実行することが、短期的な収益確保の観点から重要です。ただし、関係法令違反があれば交付金一時停止措置が講じられるため、コンプライアンスの徹底は必須です。
環境アセス・電気事業法への対応強化
環境アセス対象が30MW未満まで拡大される方向であり、次のような対応が必要です。
- 環境アセスの専門知見を持つパートナーとの連携
- 早期段階からの環境配慮設計
- 地域住民との丁寧なコミュニケーション
- 法令アセスに耐えうる案件設計
電気事業法による保安規制の強化が打ち出される中、設計・施工段階から要求事項を厳格に遵守する体制が求められます。PPAスキームの案件であっても、電気事業法による規制は適用されるため、従来以上に高い技術水準と管理体制が必要です。
ペロブスカイト技術の早期習得
ペロブスカイト太陽電池の建物設置推進が政策として明記されたことで、次の取り組みが重要です。
- 県内企業向けセミナー・講習会への参加
- 設計・施工ノウハウの早期蓄積
2027年度の市場立ち上がりに向けて、この1〜2年で技術を習得した企業が競争優位性を持ちます。
GX戦略地域への提案機会活用
GX戦略地域への投資支援(5年で2,100億円)は、大手企業の工場・データセンター案件への参入機会を示唆します。
- 太陽光PPAを提案する際の支援策活用
- 原発・再エネ100%使用という条件を満たす提案設計
- 投資コスト削減という明確な価値提案
ポジティブゾーニング情報の収集
ポジティブゾーニングが活性化すれば、自治体が明確にした推進エリアでの開発が進めやすくなります。
- 各自治体の区域設定状況の注視
- 推進エリア内での案件開発の優先
- 環境アセスや住民合意形成のハードル低減
逆に、保全エリアでの開発は今後ほぼ不可能になると考えるべきです。
政策転換の本質:不適切な開発の排除と地域共生型の推進
自民党の提言と政府のGX戦略地域への投資支援は、日本の太陽光政策が大きな転換点を迎えたことを示しています。
FIT・FIP廃止が新設案件のみとなったことで、既得権益は保護されつつ、すでに形骸化していた制度が整理されます。一方、電気事業法の積極活用と環境アセス対象の拡大という規制強化により、不適切な開発は事前に排除される仕組みが構築されます。
そして最も重要なのは、次の3つの施策による「地域共生型への明確なシフト」が、制度的に裏付けられた点です。
- ペロブスカイト建物設置推進
- 再エネ推進区域設定支援
- GX戦略地域への2,100億円投資支援
野立てから屋根置きへ、環境破壊型から地域共生型へという方向性が、単なるスローガンではなく、具体的な予算措置と規制枠組みを伴って推進されます。
EPC事業者として求められるのは、既認定案件の確実な実行、環境アセス・電気事業法への対応強化、ペロブスカイト技術の早期習得、GX戦略地域への提案機会活用、ポジティブゾーニング情報の収集という、複数の戦略を並行して進めることです。
2027年度という転換点まで残された時間は限られています。政策の方向性が明確になった今、いかに早く準備を進めるかが、市場立ち上がり時の競争優位性を左右します。
