みなさん、こんにちは!
今日は、太陽光発電所で広がる「ロボット草刈機」の活用について共有します。
和同産業が開発した国産ロボット草刈機は、本格的に雑草を刈れる機種として2020年に販売開始し、果樹園だけでなく太陽光発電所や空港など幅広い場所で採用が増加しています。
地表にワイヤーを張って自律走行の範囲を設定し、充電と走行を1時間ずつ繰り返しながら24時間体制で雑草管理が可能。
人手不足と人件費上昇に悩む業界にとって、O&Mコスト削減の有力な選択肢として注目されています。
国産初の本格的ロボット草刈機が登場
太陽光発電所での自律走行による雑草管理では、これまで欧州メーカー製のロボット芝刈機が先行して活用されてきました。
米iRobot(アイロボット)の室内用ロボット掃除機「ルンバ」が屋外で芝生を刈るイメージで、敷地内を自律的に動き回りながら草を刈ります。
いち早く実用化されてきましたが、あくまで芝刈機なので、庭などを前提としており、平坦であるなど、その特徴を十分に発揮できるのは特定の条件の太陽光発電所に限られます。
それに対して、関西にある太陽光発電所が採用したのは、本格的に雑草を刈れる機種です。
除雪機や草刈機を手がける和同産業(岩手県花巻市)が開発・製造しています。本格的に雑草を刈る用途に使えるロボットとしては国内初の機種として、2020年に販売を開始しました。
当初の想定
- 主に果樹園での利用を想定して製品化
- リンゴなどの果樹園での雑草管理
実際の展開
- 果樹園だけでなく、工場の空き地、さまざまな遊休地など
当初は予想していなかった場所でも使われるように - 太陽光発電所もその1つ
- 空港での実証事例も
自律走行の仕組みと基本性能
和同産業のロボット草刈機は、地表にワイヤーを張って囲むことで自律走行の範囲を設定します。充電ステーションを発着点とし、ワイヤーで囲まれた区域の中をランダムに走行しながら雑草を刈っていきます。
地表に張ったワイヤーは信号を発しており、ロボット草刈機はこの信号を受信して自律走行する区域の境界を把握します。ロボット草刈機1台あたりの最大作業領域の目安は3,000㎡となっています。
一般的な地表や雑草の状態では、満充電時に約1時間、連続走行できます。充電の残りが少なくなると自律的に充電ステーションに戻って給電を受け、約1時間で満充電になります。こうして約1時間、自律走行して刈った後、1時間かけて充電するというサイクルで作業を繰り返します。
このサイクルにより、理論上は24時間体制で雑草管理が可能となります。
充電ステーションから発信している信号をロボット草刈機が受信できなくなると駆動を停止します。この距離の目安は充電ステーションから約100mとしています。また、車体を持ち上げた場合も駆動を停止します。これらは安全性の確保や盗難された車体の使用を防ぐための機能です。
刈刃の工夫で寿命を延長
車体の下に備える刈刃は、円盤状の部材にナイフのような刃が2本取り付けられています。円盤状の部材が回ると刈刃も回転して雑草を刈ります。
特徴的なのは、刈刃の回転方向を左回転、右回転と順次、変えながら刈っていく点です。この設計により、刈刃の摩耗が一定の場所に集中せず寿命を長くすることができます。
長期的な運用において、メンテナンスコストを抑える重要な設計思想となっています。
太陽光発電所での活用における注意点
太陽光発電所におけるロボットの走行では、パワーコンディショナー(PCS)に送電する電線から電気的な干渉を受ける可能性があり、その影響を低減するためのリスク対策が必要になります。
こうした場所では、柵などを設置しておけばそこで向きを変えて走ります。また、ワイヤーの敷設を工夫することでも避けられますし、中継器を追加する手法も用意されています。
太陽光発電所における活用では、事前に現地に出向いて、利用する場所の特徴に合わせて適切に運用できるかどうか確認してから販売しています。
導入を阻む2つのリスク
リスク1:砕石によるパネル破損
太陽光発電所への販売や引き合いが増えている傾向の中で、特有の理由によって導入を断念せざるを得ない例も出てきています。
例えば、地表を覆う砕石です。雑草対策として開発時に採用されていることがあります。砕石の上をロボット草刈機が走ることはできますが、回転刃が砕石を巻き込んで飛ばしてしまい、太陽光パネルのカバーガラスに当たって割れてしまう恐れがあります。このリスクを考慮して導入を断らざるを得ないことがあります。
リスク2:警備システムとの誤認
もう一つの深刻な問題は、防犯対策との両立です。
電線の盗難が多発している地域では、警備会社が設置した警報システムにおいて、走行中のロボット草刈機が不審者の侵入の疑いとして通報されてしまい、そのたびに警備会社の駆け付け対応が必要になってしまったことがありました。この太陽光発電所では、採用を断念せざるを得なくなりました。
しかし、この課題は逆に機会ともなり得ます。今後、赤外線カメラを搭載したロボット草刈機を、夜間に走行する運用とすることで、警備を兼ねた自律走行を実現できる可能性もあるでしょう。雑草管理と防犯を一体化したソリューションとして進化する可能性があります。
遠隔監視機能でトラブル防止
太陽光発電所向けでは、遠隔監視機能の採用を推奨しています。稼働が止まれば即座に伝わるため、その1カ月後の太陽光発電所の点検時まで稼働が止まって、雑草が伸びてしまっていることに誰も気づかないといったトラブルを防ぐことができます。
この遠隔監視機能は、こうした事情から太陽光発電所向けではほぼ採用されているといいます。特に、頻繁に点検に行けない遠隔地の発電所や、複数の発電所を管理する事業者にとって、稼働状況をリアルタイムで把握できることは大きなメリットです。
「外付け太陽光パネル充電」という合理的選択
ロボット草刈機の電源について、本来は売電するはずの発電電力で充電する方法と、専用の太陽光パネルを設置して供給する方法があります。
記事によると、外付けの太陽光パネルを活用する例が増えてきているとのことです。これは極めて合理的な選択です。
外付けパネルのメリット
1.売電事業性を高められる
FIT価格40円/kWhで売電している発電所では、自家消費するよりも売電した方が経済的です。外付けパネルなら売電収入を減らさずに雑草管理ができます。
2.出力制御対策になる可能性
春季の出力制御で売電機会が失われる中、抑制された電力を自家消費に回すという発想も成り立ちます。ただし、出力制御は主に日中に発生するため、ロボット草刈機の充電タイミングと合わせる必要があります。
3.環境適合性の向上
太陽光で発電した電力で太陽光パネル下の雑草を管理するという循環型のシステムは、「グリーンウォッシュ」ではない実質的な脱炭素の取り組みとして訴求力があります。
4.他の設備への応用可能性
外付けパネル+蓄電池という小規模なオフグリッドシステムは、ロボット草刈機以外にも監視カメラや防犯設備への応用が可能です。
O&Mコスト削減の有力な選択肢
太陽光発電所のO&M(運用・保守)において、雑草管理は大きなコスト要因です。従来は人手による草刈りや除草剤散布が主流でしたが、人手不足と人件費上昇により、年間の雑草管理コストは無視できない規模になっています。
ロボット草刈機は1台で最大3,000㎡をカバーでき、メガソーラーでも複数台導入で広範囲の管理が可能です。24時間体制で自律走行するため、初期投資は必要ですが、数年間の人件費削減効果と比較すれば投資回収が見込めるケースが多いと考えられます。
特に人手確保が困難な地方の発電所、頻繁に点検に行けない遠隔地の発電所、年間の草刈りコストが高額な発電所では、自律走行による無人管理のメリットが大きくなります。
再エネ事業者にとっての提案機会
ロボット草刈機の普及は、再エネ事業者にとって新しいO&M提案の選択肢となります。
新設案件での初期提案
発電所の設計段階から織り込むことで、後付け導入よりも効率的な運用が可能になります。砕石の有無・粒度の選定、ワイヤー敷設ルートの計画、充電ステーション位置の最適化、外付け太陽光パネルの設置場所などを事前に検討することで、スムーズな導入が実現できます。
既設案件へのレトロフィット提案
O&Mコスト削減を課題とする既設発電所に対して、ロボット草刈機本体、外付け太陽光パネル、遠隔監視システムを一体型のソリューションとして提案できます。特に人手確保が困難な地方や、年間の草刈りコストが高額な発電所では投資回収が早くなります。
防犯対策との統合提案
赤外線カメラ搭載による夜間警備機能や、遠隔監視システムとの連携により、雑草管理と防犯を一体化したソリューションを構築できれば差別化要因となります。
新潟県営メガソーラーのケーブル盗難事例でも触れたように、防犯対策は全国の太陽光発電所が直面する共通課題です。
国産機種の優位性
和同産業は岩手県の企業であり、東北地方での導入事例もあります。東北地方を拠点とする事業者にとって地理的に近く、メンテナンス体制が構築しやすい、技術サポートを受けやすい、迅速な対応が可能といった優位性があります。
出力制御対策としての活用検討
春季の出力制御で余剰電力が生じる発電所では、抑制された電力をロボット草刈機の充電に回すという活用も検討できます。ただし、出力制御は主に日中に発生するため、充電タイミングの調整が課題となります。
自動化が進むO&Mの未来
国産初の本格的ロボット草刈機は、太陽光発電所のO&Mに新しい可能性を開いています。
再エネ事業者として、新設案件での初期提案、既設案件へのレトロフィット提案、防犯対策との統合ソリューション、遠隔監視システムとの連携など、ロボット草刈機を核としたO&M自動化モデルを構築することで、長期的な顧客関係と安定収益につながります。
人手不足と人件費上昇が続く中、自律走行ロボットによる無人管理は、太陽光発電所のO&Mにおける現実的な解決策となっています。
和同産業が2020年に販売開始してから、太陽光発電所や空港など幅広い場所で採用が増加している事実は、この技術が実用段階に入ったことを示しています。
外付け太陽光パネルで充電し、遠隔監視でトラブルを即座に把握できる仕組みは、売電事業性と環境適合性を両立させながら、O&Mコストを削減する理想的なモデルです。
今後、赤外線カメラ搭載による夜間警備機能が実現すれば、雑草管理と防犯を同時に解決する統合ソリューションとして、さらなる普及が期待されます。
