みなさん、こんにちは!

今日は、名古屋大学とデンソーが開発したペロブスカイト太陽電池向けの「カーボンナノチューブ電極」について共有します。

従来の金や銀といった金属電極の代わりに炭素材料を活用することで、腐食に強く製造コストを半分程度に抑えられる可能性があります。2027年度から野立て太陽光への支援が廃止され、屋根置き市場が主戦場となる中、ペロブスカイト太陽電池のコスト競争力向上は市場拡大の鍵を握ります。

2年程度で30cm角に大型化という実用化スケジュールは、政策転換のタイミングと整合しており、屋根置き市場の本格立ち上がりと技術革新が同期する理想的な展開が見込まれます。

カーボンナノチューブ電極の開発――3つのブレークスルー

名古屋大学の松尾豊教授らは、デンソーなどとの共同研究で、ペロブスカイト太陽電池向けに筒状の炭素材料「カーボンナノチューブ」を活用した負極電極を開発しました。研究成果をまとめた論文は英国王立化学会が発行する「ジャーナル・オブ・マテリアルズ・ケミストリー・A」に掲載されています。

この開発がもたらす3つのブレークスルーを見てみましょう。

ブレークスルー1:電極コストを半分に

従来の金や銀といった貴金属電極は材料費が高く、製造コスト削減の障壁となっていました。松尾教授は「金属電極をカーボンナノチューブ製に置き換えられれば電極のコストを半分程度に抑えられる」と述べています。

ペロブスカイト太陽電池は原料をフィルムやガラスなどの基板に塗って作るため、もともと安く製造できると期待されていましたが、電極コストの削減により、さらなる価格競争力の向上が期待できます。

ブレークスルー2:腐食耐性の向上

金属電極に比べて腐食に強いという特性は、長期的な耐久性向上につながります。太陽電池は通常20年以上の運用が前提となるため、電極の劣化が少ないことは、長期的な発電効率の維持に寄与します。

ブレークスルー3:高い透明度がタンデム型への道を開く

カーボンナノチューブ電極は光の7割超が透過するほど透明度が高いという特徴があります。この特性により、ペロブスカイト太陽電池とシリコン型太陽電池を組み合わせた「タンデム型」向けの電極としても活用できる可能性が広がります。

負極電極化の技術的チャレンジとその克服

松尾教授らは過去に太陽電池の正極電極としてカーボンナノチューブを使う技術を開発していましたが、これまで負極電極には使えませんでした。

今回の研究では、特定の物質を使ってカーボンナノチューブに電子を注入することで負極電極化に成功しました。電気の流れを良くするために工夫を重ねた結果、金属電極の代わりに使える技術を確立したのです。

現時点では1.5cm角ほどの大きさで、発電効率は約8%です。研究チームは今後2年程度で30cm角まで大型化する目標を掲げており、将来は15%以上の発電効率を目指しています。発電効率約8%から15%以上へという目標は、タンデム型への展開も視野に入れたものと考えられます。

2027年の屋根置き市場とペロブスカイトの位置づけ

2027年度から野立て太陽光への支援が廃止され、屋根置き市場が主戦場となります。この政策転換の中で、ペロブスカイト太陽電池のコスト競争力向上は極めて重要な意味を持ちます。

ペロブスカイト太陽電池はフィルム状で薄くて曲がる特徴を持ち、一般的な太陽光パネルにはない柔軟性があります。特に耐荷重制約のある既存建物への後付け導入では、この薄くて軽い特性が大きな優位性となります。

三井ホームと東京ガスの事例で薄型軽量パネルが従来型の約40%の重量に軽減されたように、ペロブスカイトはさらなる軽量化が可能であり、これまで設置不可能だった建物への展開が期待できます。老朽化した工場・倉庫や歴史的建造物など、荷重制約が厳しい建物でも設置可能になる可能性があります。

カーボンナノチューブ電極により電極コストを半分程度に抑えられれば、ペロブスカイト太陽電池の価格競争力が大幅に向上し、屋根置き市場での普及が加速するでしょう。

タンデム型への展開が示す技術進化の方向性

カーボンナノチューブ電極が光の7割超を透過する高い透明度を持つ点は、ペロブスカイトとシリコン型を組み合わせた「タンデム型」への応用を可能にします。

タンデム型は、異なる波長の光を効率的に吸収することで発電効率を大幅に向上させる技術です。上層のペロブスカイト層が特定の波長を吸収し、透過した光を下層のシリコン層が吸収するという二段構えの仕組みにより、単一の太陽電池よりも高い発電効率を実現できます。

現在の発電効率約8%から将来15%以上を目指すという目標は、このタンデム型への展開も視野に入れたものと考えられます。研究チームが明確に「タンデム型向けの電極開発も進めている」と述べている点も、この方向性を裏付けています。

名古屋電機工業が福岡県でカルコパイライトとペロブスカイトのタンデム化を見据えた技術検証を進めているように、次世代型太陽電池の開発競争は単一技術ではなく、複数技術の組み合わせによる高効率化が主戦場となっています。カーボンナノチューブ電極という基盤技術の進化が、こうした技術統合を加速させます。

「2年で30cm角」という実用化スケジュールの意味

研究チームが「今後2年程度で30cm角まで大型化」という具体的な目標を掲げています。

1.5cm角から30cm角への大型化は、面積比で約400倍のスケールアップとなります。この目標を2年という短期間で達成しようとしている背景には、技術的な目処が立っていることに加えて、市場からの強い要請があると考えられます。

この実用化スケジュールは、2027年度の野立て支援廃止というタイミングとも整合します。政府が屋根置き重視にシフトする2027年度に向けて、ペロブスカイト太陽電池が実用段階に入れば、政策的追い風を受けて一気に市場が立ち上がる可能性があります。

デンソーという大手自動車部品メーカーが共同研究に参加している事実も、量産化・実用化への本気度を示しています。デンソーはトヨタグループの主要企業であり、自動車産業で培った量産技術やコスト管理のノウハウを持っています。この強力なパートナーシップが、研究室レベルの技術を実用化レベルに引き上げる原動力となるでしょう。

国産技術としての優位性

名古屋大学とデンソーという国内の研究機関・企業による開発は、いくつかの点で優位性があります。

技術サポート体制

国内に研究開発拠点があることで、技術的な問題が発生した際の対応が迅速です。中国製パネルが市場を席巻する中、国産技術の選択肢が増えることは、特に品質や長期サポートを重視する顧客にとって重要な判断材料となります。

サプライチェーンの安定性

国内で基盤技術を持つことは、地政学的リスクへの対応という観点でも重要です。太陽光パネルの多くを輸入に依存している現状に対し、国産技術の確立は、安定供給という面で戦略的価値があります。

政策的支援の可能性

国産技術の育成は産業政策の観点からも重要であり、実用化段階において政策的な支援が得られる可能性があります。特に2027年度以降の屋根置き重視政策の中で、国産のペロブスカイト技術が推奨される可能性は十分にあります。

再エネ事業者にとっての戦略的意味

ペロブスカイト太陽電池の技術進化は、再エネ事業者にとって重要な動向です。

01

実用化タイミングの見極め

2年程度で30cm角に大型化という目標は、2027年頃に実用段階に入る可能性を示唆しており、野立て支援廃止と同時期に屋根置き市場の主力技術として立ち上がる可能性があります。技術動向を注視し、実用化の兆しが見えた段階で速やかに提案できる準備が必要です。

02

既存建物への提案幅の拡大

電極コスト半減により価格競争力が向上し、薄くて軽い特性と組み合わせれば、これまで耐荷重制約で設置不可能だった建物への展開が可能になります。

特に老朽化した工場・倉庫、歴史的建造物、集合住宅の屋上など、荷重制約が厳しい建物での提案機会が広がります。これらは従来の結晶シリコンパネルでは対応できなかった市場であり、新しいビジネスチャンスとなります。

03

タンデム型への対応準備

ペロブスカイトとシリコン型を組み合わせたタンデム型が実用化されれば、発電効率が大幅に向上し、限られた屋根面積でより多くの発電量を確保できます。

都市部の商業ビルや工場など、屋根面積が限られている建物では、高効率なタンデム型の価値が特に高くなります。

政策転換と技術革新の理想的な同期

カーボンナノチューブ電極の開発は、ペロブスカイト太陽電池の実用化を大きく前進させる技術革新です。

電極コスト半減、腐食耐性向上、タンデム型への展開可能性という3つのブレークスルーは、2027年度の野立て支援廃止後に主戦場となる屋根置き市場において、ペロブスカイトを主力技術に押し上げる可能性を秘めています。

2年程度で30cm角に大型化という実用化スケジュールは、政策転換のタイミングと整合しており、屋根置き市場の本格立ち上がりと技術革新が同期する理想的な展開が見込まれます。デンソーという強力なパートナーとの共同研究により、量産化への道筋も明確です。

再エネ事業者として、実用化タイミングの見極め、既存建物への提案幅拡大、タンデム型対応準備、国産技術の優位性活用など、ペロブスカイト時代に向けた戦略的準備が求められます。

2027年という明確な転換点に向けて、政策と技術が同時に動いています。この歴史的な転換期において、新しい技術への対応力が、今後の競争力を大きく左右することになるでしょう。