みなさん、こんにちは!

今日は、新潟県営メガソーラーが直面する「出力制御」の深刻化について共有します。
豪雪地帯でありながら事業計画を上回る発電実績を上げてきた同発電所ですが、2024年度以降は出力制御の影響で予想発電量を下回る状況に陥っています。

最も稼げるはずの4〜5月が出力制御で売電停止となり、6月が年間最大の売電月に変わるという逆転現象が起きており、再エネ普及の新たな課題が浮き彫りになっています。

新潟県営メガソーラーの概要と実績

新潟県の下越地域に位置する阿賀野市にある県営の東部産業団地内に、連系出力が合計17MW、太陽光パネルの出力が合計約23.55MWのメガソーラー「新潟東部太陽光発電所」があります。

1号系列連系出力1MW、パネル出力約1MW(2011年10月稼働)
2号系列連系出力1MW、パネル出力1.25MW(2012年7月稼働)
3号系列連系出力15MW、パネル出力約21.3MW(2015年7月稼働)
設備構成

FIT売電単価

  • 40円/kWh(税抜き)
  • 1号系列は補助金関連の控除分を除いた30.64円

発電事業者は新潟県の企業局です。同企業局は水力発電を中心に60年以上、発電事業を手掛けてきました。

戦後の復興期以降に治水を目的に建設したダムを使ったもので、村上市で1952年12月に稼働した三面発電所を皮切りに、多くの水力発電所を運営してきた実績があります。

太陽光発電所は固定価格買取制度(FIT)を機に開発・運営し始めました。そして東部産業団地内のメガソーラーも、O&M(運用・保守)は水力発電と同じように、村上市にある新潟県発電管理センターが担当し、24時間体制で発電状況を遠隔監視・制御しています。

豪雪地帯でも事業計画を上回る実績を維持

日本海側に位置するメガソーラーでは、積雪の影響が大きな課題となります。

積雪対策の設計

  • 設計時点での阿賀野市の最大積雪深の最高:約130cm
  • 平均:約55cm
  • 太陽光パネル低部の設置高:約180cm(最大積雪深に約50cmの余裕)
  • 設置角:2〜3号系列30度、1号系列は20度と40度の可変型(冬は40度)

過去最高以上の降雪量を伴う大雪や、前に積もった雪が十分に溶ける間がないままその上に連続的に雪が降り積もる場合でも、太陽光パネルの下に溜まった雪の山がパネル最低部に届きにくくする狙いがあります。

近年の新潟では夏はより暑くなっています。それでは冬も寒さが和らぐ傾向にあるかというと、そうではなく、冬の寒さも厳しいという極端に振れた状況にあるようです。

メガソーラーの稼働後、阿賀野市では設計時点での過去30年間の年間最大積雪深の平均である約55cmよりも多く積もる日が出てきています。1mを超える日が続いた年もあります。

こうした中でも年間を通してみると、事業計画時の予想を上回って好調な年が続いてきました。
年ごとの傾向も比較的似ており、適切な設計と運用により豪雪地帯でも安定した発電を実現してきました。

2024年度から状況が一変、出力制御の影響

ところが、直近の2024年〜25年の2年間は、事業計画時の予想発電量をわずかながら下回っています。

この大きな理由が電力会社による出力制御(出力抑制)です。

出力制御の推移

  • 2022年:県営のメガソーラーに対し、初めて出力制御指令が出される
  • 以降:年を追うごとに出力制御の対象となる回数は増え続ける
  • 対象日:おおよそ8時〜17時の8〜9時間、売電が停止

経済産業省の公表する東北電力管内における年間を通じた出力制御率

  • 2024年度:1.3%
  • 2025年度:3.0%(見込み)

年間で見ると数%程度ですが、月単位で見ると、抑制量の多い春季には、その影響がいかに大きいかが分かります。

「最も稼げる時期に売電停止」という逆転現象

出力制御が始まる前は、最大規模の東部3号系列のメガソーラーは例年、

従来の発電パターン

  • 12月:発電量が最も少ない
  • そこから右肩上がりに発電量が増加
  • 4月〜5月:最も発電量が多い月

日射量が多く、最も稼げる時期が4〜5月でした。

それが出力制御の回数が増えるにつれて、

出力制御による逆転現象

  • 3月:積雪と出力制御の両方の影響を受ける月に
  • 4月〜5月:最も稼げるはずの期間が出力制御によって売電量が大きく減少
  • 6月:出力制御の影響が比較的少なく、年間で最大の売電量に変化

このように、出力制御の影響が大きく、日射量に対する発電量という単純な比較で設備の状態が健全かどうかを検討することも難しくなってきているといいます。

太平洋側に比べると曇りの日が多い傾向にある地域に特有の苦悩といえそうです。
日射量が限られる中、稼げる日に出力制御で売電できないという二重の困難に直面しています。

「最も稼げる時期に売電停止」という構造的矛盾

新潟県営メガソーラーが直面する状況は、再エネ普及の構造的矛盾を象徴しています。

需給ミスマッチの本質(4〜5月)

  • 供給側:日射量が多く最も発電量が期待できる時期
  • 需要側:冷暖房需要が少なく電力需要が低い時期

この需給ミスマッチにより、最も発電できる時期が出力制御の対象となりやすい構造になっています。

結果として「最も稼げるはずの時期に売電停止」となり、6月が年間最大の売電月に変わるという逆転現象が起きています。

東北電力管内の年間出力制御率は2025年度で3.0%と一見低く見えますが、春季には影響が極めて大きく、対象日には8〜9時間の売電停止となります。
これは事業計画時には想定されていなかった事態であり、FIT価格40円/kWhで採算を見込んでいた事業が、出力制御により計画を下回る収益となっています。

再エネが増えれば増えるほど、この問題は深刻化します。

オンライン制御による対応とその限界

ここまで影響が大きいため、新潟県企業局は以下の対応を取りました。

対応内容

  • 対象設備:東部3号系列と北新潟太陽光発電所(出力約4MW)
  • 変更内容:企業局みずからによる手動操作から、電力会社側が遠隔でPCSの稼働を操作する「オンライン制御」に変更
  • 判断基準:費用対効果

2025年2月に切り替えた北新潟太陽光発電所では、早くも大きな効果を上げています。

従来

  • 出力制御対象日は終日売電停止

オンライン制御導入後

  • 発電量がいちばん多く期待できる4月〜5月でも
  • 稼働が止まるのは5時間程度にとどまる
  • 3時間程度は売電できる

この2カ所はオンライン制御に切り替える費用よりも売電ロスが減る度合いの効果が上回ることが予想できたため、切り替えました。
東部1号〜2号系列は、そこまでの費用対効果を見込めない予想のため、オンライン制御には切り替えず、企業局による手動操作での対応を継続しています。

オンライン制御による改善は重要ですが、これはあくまで「出力制御の影響を緩和する」手段であり、根本的な解決策ではありません。

小規模設備ではオンライン制御の導入コストが売電ロス削減効果を上回らず、出力制御自体もなくなるわけではありません。春季の売電機会損失は継続して発生します。

本質的な解決には、蓄電技術の導入や、需給調整市場への参加など、新しいビジネスモデルが必要です。

もう一つの課題、ケーブル盗難被害

北新潟太陽光発電所では、2024年6月に盗難の被害に遭いました。

事件の概要

  • 発電監理センターで発電設備の一部が稼働停止を把握
  • 保守委託企業に現地への駆け付けを依頼
  • 銅電線が切られて盗まれたことが判明

対応と再発防止

  • 侵入対策や警備体制などを強化
  • 2024年10月に稼働を再開
  • さらなる追加策も投じていく
  • この盗難を機に新潟東部太陽光発電所でも同じように対策を強化

その後、東南アジア出身の2人が逮捕されましたが、賠償などを得るのは現実的に難しい状況です。
新潟県営メガソーラーは、豪雪という自然条件への対策と盗難という人為的リスクへの対策の二重の課題を抱えています。

新潟県営という公的事業者でも盗難被害を防げない現実は、全国の太陽光発電所が直面する共通リスクです。保険が十分に機能しない状況の中、物理的な防犯対策が不可欠となっています。

再エネ事業者にとっての教訓と対応策

新潟県営メガソーラーの事例は、再エネ事業者にとって重要な教訓を含んでいます。

01

出力制御リスクの事業計画への織り込み

従来の事業計画

  • 2011〜2015年稼働の発電所は出力制御を想定していなかった
  • FIT価格40円/kWhで安定した収益を見込んでいた

現在の状況

  • 事業計画時に出力制御による売電ロスを織り込む
  • 最も稼げる時期の収益が制限されることを前提とした計画
  • 保守的な収益予測と投資回収期間の設定
02

オンライン制御導入の費用対効果分析

新潟県企業局が規模別に導入判断を分けたように、設備容量や出力制御頻度に応じて導入コストと売電ロス削減効果を比較する必要があります。

検討項目

  • オンライン制御の導入コスト
  • 年間の出力制御対象日数と時間
  • 削減できる売電ロスの金額
  • 投資回収期間
03

長期蓄電技術(LDES)との組み合わせ検討

出力制御の根本的解決には蓄電が不可欠です。
春季の余剰電力を蓄電し、需要が高い時期や出力制御がない時期に放電することで、売電機会損失を最小化できます。

LDES技術の可能性

  • 液化空気蓄電
  • その他の長期蓄電システム
04

豪雪対策と防犯対策の両立

豪雪地帯では、これらを両立させる総合的な設計力が求められます。

豪雪対策

  • パネル設置高の十分な確保(積雪深+50cm以上の余裕)
  • 架台強度の設計
  • 設置角の最適化(30〜40度)

防犯対策

  • ケーブル盗難への物理的対策を設計段階から組み込む
  • 侵入検知システム
  • 警備体制の強化
  • 照明や監視カメラの設置
05

公的事業者との連携可能性

新潟県企業局のように、自治体や公的機関が運営する発電所と下記のような連携ができれば、安定的な案件として期待できます。

自治体や公的機関と連携

  • O&M(運用・保守)
  • 改修工事
  • オンライン制御への切り替え工事

再エネ普及の新たなフェーズと求められる対応

新潟県営メガソーラーの事例は、再エネ普及が新たなフェーズに入ったことを示しています。

豪雪という厳しい自然条件を克服して事業計画を上回る発電実績を維持してきた優良案件が、出力制御により予想発電量を下回る状況に陥っています。
これは設備の問題でも、運用の問題でもなく、再エネが増えすぎたことによる構造的な問題です。

「最も稼げる4〜5月に売電停止」という構造的矛盾は、オンライン制御で緩和できても根本的には解決しません。
出力制御は今後さらに拡大する見込みであり、これを前提とした事業モデルの再構築が不可避です。

新潟県営メガソーラーが60年以上の発電事業の実績を持つ企業局によって運営され、24時間体制で遠隔監視・制御されているにもかかわらず、出力制御の影響を避けられないという事実は、この問題の深刻さを物語っています。

再エネの大量導入時代には、発電だけでなく、蓄電、需給調整、系統運用を含めた総合的なソリューションが求められる時代になっています。