みなさん、こんにちは!
今日は、薄膜太陽電池市場の動向について共有します。
2025年から2032年にかけて年率10%の成長が予測されており、CIGS(銅インジウムガリウムセレン)、アモルファスシリコン、有機太陽電池など、ペロブスカイトだけではない多様な次世代技術が注目されています。
軽量で柔軟な設計により、従来型パネルでは設置困難だった曲面や壁面への適用が可能であり、2027年度の野立て支援廃止後の屋根置き市場において、薄膜技術群は重要な選択肢となります。
薄膜太陽電池市場の成長予測と背景
薄膜太陽電池市場は2025年から2032年にかけて年率10%の成長が予測されています。この成長の背景には、持続可能なエネルギーへの需要増加、リサイクル・省資源技術への注目、そして何より軽量で柔軟な設計という技術的特性があります。
従来の結晶シリコン型太陽電池は重量があり、設置場所が限定されていました。しかし薄膜技術は、屋根やカーブした表面、壁面、さらには車両への適用が可能であり、設置場所の選択肢が大きく広がります。
平地の限られた日本において、建物の屋根や壁面を活用できる薄膜技術は、まさに「再エネ拡大の切り札」となる可能性を秘めています。
主要技術の特徴と棲み分け
薄膜太陽電池は、単一技術ではなく複数の技術群として発展しています。それぞれの特性を理解することが、適切な技術選定の鍵となります。
銅インジウムガリウムセレン(CIGS)
CIGSは高い変換効率と柔軟性を特徴とし、屋根やカーブした表面への適用が可能です。ペロブスカイトと競合する面もありますが、主原料が銅・インジウム・ガリウム・セレンであり、資源確保の観点ではペロブスカイト(主原料:ヨウ素)とは異なる戦略が必要です。
アモルファスシリコン(a-Si)
アモルファスシリコンはコスト効率が高く、低光条件でも性能を発揮します。この特性は、日照時間が短い地域や曇天が多い地域での優位性を意味します。
日本は梅雨や秋雨などの季節があり、年間を通じて常に晴天というわけではありません。低光条件でも発電できる技術は、実用性の観点から重要です。
有機太陽電池
有機太陽電池は、軽量性と柔軟性に加え、製造プロセスが比較的シンプルであるという特徴があります。新潟県のカルコパイライト実証や山梨県の有機薄膜太陽電池など、各地で実証が進んでいます。
重要なのは、これらの技術が「競合」ではなく「用途・地域に応じた棲み分け」を進めるという点です。
| 高効率が求められる用途 | CIGS |
| 低光条件が多い地域 | アモルファスシリコン |
| 軽量・柔軟性が最優先 | 有機太陽電池、ペロブスカイト |
| 国産エネルギー安全保障 | ペロブスカイト(ヨウ素が国内調達可能) |
用途別の市場セグメント
薄膜太陽電池の用途は、従来の野立て・屋根置きという枠を超えて多様化しています。
商業用(店舗ウィンドウ、オフィス窓)
ガラス建材と一体化した透過型の太陽電池は、商業施設のウィンドウやオフィスの窓に設置され、発電しながら採光も確保できます。
住宅用(エネルギー効率向上、UVカット)
住宅の窓や屋根に貼ることで、冷暖房費を削減しながら発電できます。従来の太陽光パネルは重量があり設置できなかった屋根でも、軽量な薄膜技術なら設置可能です。
モバイル用途(車両、輸送、屋外)
最も注目すべきは、この「モバイル用途」という新しい市場セグメントです。
車両用フィルムは紫外線保護やプライバシーのために利用され、特にSUVやトラックでの需要が高いとされています。軽量で柔軟な薄膜技術は、電気自動車(EV)の車体や屋根に貼り付けることで、走行中や駐車中に発電し航続距離を延ばすという用途が考えられます。
また、屋外での利用として、テント、バックパック、災害時の避難所など、ポータブル電源としての需要も見込まれます。PowerFilmが「薄型で軽量なソーラーチップを製造し、特にポータブル製品に強み」を持つように、モバイル用途は建築市場とは別の成長ドライバーとなる可能性があります。
工業用(特定ニーズに応じたカスタマイズ)
工業分野では、特定のニーズに応じたカスタマイズが可能であり、安全フィルムなど特殊用途での採用が進んでいます。
地域別の市場動向
アジア太平洋地域が最も成長している市場であり、中国やインドが主導しています。需要は、クリーンエネルギー政策や技術革新によって高まり、政府のインセンティブ、持続可能な開発への意識、エネルギー自給率向上が主な成長ドライバーです。
中国は製造業とテクノロジー分野での急成長が目立ち、インドも急速な経済成長と人口の多さが新興市場の主因となっています。
北米市場は非常に成熟しており、米国とカナダが主要プレイヤーです。技術革新と先進的な雇用パターンが特徴であり、特に米国はスタートアップ企業の多さと多様な労働市場で知られています。
日本は、アジア太平洋地域の中でも特殊な位置づけにあります。屋根置き市場の160GWポテンシャルを開拓する方向性が明確であり、薄膜技術の活用余地は大きいと言えます。
ドイツが屋根置き約7割を実現しているのに対し、日本は屋根置き4割にとどまっており、この40GW分のギャップを薄膜技術で埋める余地があります。
主要企業と競争戦略
薄膜太陽電池市場には、複数の主要企業が存在し、それぞれ独自の技術と戦略で市場シェアを拡大しています。
| Uni-Solar | 薄型太陽光発電技術に特化し、屋根やビル統合型ソーラー製品を提供 |
| MiaSolé | 軽量で柔軟なCIGS技術を活用し、さまざまな環境に対応 |
| Global Solar | 高効率なCIGSソーラーパネルを製造し、特に軽量設計が強み |
| SoloPower Systems | 薄膜技術を応用し、高出力のソーラーパネルを開発 |
| Flisom | ペースト技術を駆使し、次世代の薄膜ソーラーを提供 |
| Sun Harmonics | カスタムソリューションを通じてエネルギー効率の向上を目指す |
| FWAVE Company | 曲げられるソーラーパネルを特長とし、設置の自由度が高い |
| PowerFilm | 薄型で軽量なソーラーチップを製造し、特にポータブル製品に強み |
競争戦略としては、技術革新や提携を通じて市場シェアを拡大し、新規競合に対抗しています。
成長が見込まれる分野は、屋内エネルギーソリューション、ポータブルエネルギー、デジタルソリューションです。
市場の課題と対応策
薄膜太陽電池市場には、いくつかの課題が存在します。
規制の障壁
業界団体との連携を強化し、ロビー活動を活発化させることで、規制の変化に迅速に対応する必要があります。
サプライチェーンの問題
地元の材料供給者とのパートナーシップ構築や多様化を図ることで対処できます。CIGSの主原料である銅・インジウム・ガリウム・セレンの安定調達が課題となります。
急速な技術変化
研究開発への投資を増やし、革新的な製品を市場に投入することが急務です。名古屋大学とデンソーのカーボンナノチューブ電極開発のように、コスト低減や性能向上の技術革新が継続的に必要です。
消費者嗜好の変化
カスタマイズ可能な製品の提供を通じて応えることが重要です。
経済的不確実性
景気変動に対する柔軟な経営戦略の確立が必要です。
EPC事業者としての戦略的視点
薄膜太陽電池市場の年率10%成長は、EPCとして技術選択肢の多様化を意味します。
用途別の技術選定力
商業用、住宅用、モバイル、工業用という4つのセグメントそれぞれに最適な薄膜技術が異なるため、顧客のニーズに応じてCIGS、アモルファスシリコン、有機薄膜、ペロブスカイトを使い分ける提案力が求められます。
モバイル用途への展開可能性
車両、輸送、屋外という新しいセグメントは、従来の建築EPC事業とは異なる顧客層(自動車メーカー、運送会社、アウトドア関連企業など)へのアプローチを可能にします。
規制動向への対応
市場の課題として「規制の障壁」が挙げられており、業界団体との連携強化やロビー活動の活発化が重要とされています。県や国の規制動向を早期に把握し、適法性を担保した提案を行う必要があります。
次世代太陽電池は「技術群」として発展する
薄膜太陽電池市場の年率10%成長予測は、次世代太陽電池が単一技術ではなく、CIGS、アモルファスシリコン、有機太陽電池、ペロブスカイトという多様な技術群として発展することを示しています。
それぞれが異なる特性を持ち、商業用、住宅用、モバイル、工業用という用途別に最適化されることで、従来型パネルでは対応困難だった曲面、壁面、車両、ポータブル電源といった新しい市場セグメントが開拓されます。
EPCとして、技術選択肢の多様化に対応し、用途別の最適提案力、FREA実証拠点での技術習得、モバイル用途への展開、県内公共施設案件への参画を進めることが、2027年度の屋根置き時代における競争力につながります。
「ペロブスカイトだけ」ではなく、「次世代技術群の中からベストな選択肢を提案できる力」が、これからの太陽光EPC事業者に求められます。
