出典:シャープ株式会社
みなさん、こんにちは!
今日は、再エネ業界で注目を集め始めている「フロー電池」について取り上げます。
シャープがオーストラリア企業と提携して、フロー型亜鉛空気電池の開発を進めるというニュースです。
「フロー電池って何?」と思う方も多いかもしれません。
でもこれは、今後の再エネ事業において“リチウムの次”を担う可能性を秘めた重要技術です。
フロー電池とは?「電気を液体に貯める」新しい蓄電方式
フロー電池(Flow Battery)は、電解液をタンクに貯めて循環させることで充放電を行う蓄電池です。
一般的なリチウムイオン電池が「電極の中」に電気をためるのに対し、フロー電池は「液体」にためる点が決定的に異なります。
その結果:
- 容量はタンクの大きさで自由に拡張可能(スケーラブル)
- 電池セル部分と独立しているため、長寿命・高安全
- 発火リスクが極めて低い(無可燃)
大規模再エネや系統安定化に理想的な蓄電方式といえます。
シャープが挑む「フロー型亜鉛空気電池」
今回のニュースでシャープが発表したのは、亜鉛を使ったフロー電池。
反応の仕組みを簡単に説明するとこうです。
| 充電時 | 酸化亜鉛(ZnO)→ 亜鉛(Zn)に変化して蓄電 |
| 放電時 | 亜鉛が酸化亜鉛に戻る(放電) |
酸素を利用して電気を生み出す「空気電池」の一種で、安価で安全な素材(亜鉛・水溶液)を使うのが特徴です。リチウムのような資源リスクが少なく、発火しない。
しかも構造的に長時間の放電(4〜12時間)が得意。
つまり、夜間や曇天時の再エネ出力を補う“持久力型”の蓄電池です。
提携先ESIとの連携、鉄フロー電池の技術融合
提携相手のESI Asia Pacificは、オーストラリアで鉄フロー電池を商用化中の企業。
鉄イオンの酸化還元反応を使う低コスト型で、2026年に年間200MW規模の量産を予定しています。
両社の技術は非常に親和性が高く、
| シャープ | 日本の開発力・実証フィールド |
| ESI | 量産ノウハウ・現地供給体制 |
を組み合わせることで、次世代蓄電のサプライチェーンを日豪連携で構築しようという狙いがあります。
BESSとの違い、「瞬発力」vs「持久力」
ここで、現在主流のリチウムBESS(Battery Energy Storage System)と比較してみましょう。
| 特徴 | リチウムBESS | フロー電池 |
|---|---|---|
| 得意分野 | 瞬発力・短時間放電 (2〜4時間) | 長時間放電(4〜12時間) |
| 目的 | 一次・二次調整力、瞬時対応 | 三次調整力、容量市場 |
| 安全性 | 発火リスクあり | 無可燃・安全 |
| 寿命 | 約10年 | 約20年以上 |
| 拡張性 | 容量拡大=電池セル追加 | タンク拡大で容易 |
リチウムBESSが「短距離走型」だとすれば、フロー電池は「長距離走型」の蓄電池です。
期待される用途、系統安定化から地域マイクログリッドへ
フロー電池は今後、次の3領域での活用が期待されます。
三次調整力・容量市場
電力が慢性的に足りない時間帯に安定供給できる特性を活かし、長時間電力を出し続ける。
「容量リソース」として市場参加が可能。
出力抑制対策・アービトラージ
昼間の余剰太陽光を貯めて、夜間に放電(高値売電)。
4〜12時間の長時間放電が得意なため、価格差を最大限に活かせます。
電力市場のアービトラージとは、時間帯による電力価格の差異を利用して利益を得る取引戦略です。具体的には、価格が安い時間帯に電力を購入して蓄電池に充電し、価格が高い時間帯に放電して売電する仕組みです。
地域マイクログリッド
災害時や冬季の長時間停電にも耐えられる安定電源として、公共施設や農業拠点などでの活用。
「地産地蓄・地産地供」モデルの中核として機能します。
地域EPCにとっての新たなチャンス
フロー電池の商用化が進めば、地域EPCにとっても新たな市場が生まれます。
これまでのBESS案件は、容量や制御の標準化が進み「施工単価競争」に陥りつつあります。
一方でフロー電池はまだ黎明期。配管設計・熱管理・制御システムの構築など、現場設計力を持つEPCが主導権を握れる領域です。
特に「ソーラー+フロー電池+地域電力供給」のスキームは、再エネ・防災・地産地消の3要素を同時に満たすモデルとして、自治体や地域新電力との連携に発展する可能性があります。
フロー電池が描く「持久型のエネルギー社会」
今、世界の蓄電市場はリチウムBESSで爆発的に伸びています。しかし、その裏で「持続的に電力を支える蓄電池」が求められています。フロー電池はまさにその答えを提示する技術です。
今後、短期(リチウム)×長期(フロー)の二層構造でエネルギーシステムが最適化されていく中で、地域EPCには「どの技術をどこでどう組み合わせるか」を設計する役割が期待されます。
再エネの拡大を“支える側”のプレイヤーとして、今まさにフロー電池を理解しておくことが、次のステージへの鍵となるでしょう。
