みなさん、こんにちは!

今日は、欧州が主流としつつある「CfD(差額決済契約)」制度について共有します。

日本の再エネ支援策であるFIP(フィードインプレミアム)は、インフレによる資機材価格高騰で機能不全に陥り、太陽光・陸上風力・洋上風力の新規開発が滞っています。欧州は同じ課題に直面した結果、FIPからCfDへの移行を決断しました。

英国が2014年から導入しているCfDは、事業コストの回収を意識した制度設計で、基準価格は物価連動し、市場高騰時は国へ返還する双方向の差額調整により、事業予見性を格段に高めます。そして最も衝撃的なのは、日本の入札上限価格が国際水準と比較して大幅に低いという現実です。

洋上風力で英国22.6円/kWh対し日本18円/kWh、陸上風力で英国18.4円/kWhに対し日本12円/kWh、太陽光で英国15.0円/kWhに対し日本9円/kWh——日本の価格設定は、実際のコストの半分程度しかカバーしていません。

日本のFIPは機能不全:新規開発が完全に止まっている

日本の再エネ導入状況は、深刻な停滞に陥っています。インフレが起きているにもかかわらずFIT/FIP価格は低下し続けており、事業性が見通せないことから新規投資が進んでいません。

太陽光発電は本来「最大限導入」されるべき低コストの再エネですが、現実は厳しい状況です。

2022年および2023年の導入量各1.5GWにとどまる
FIT買取価格制度導入後、毎年引き下げ
2025年度8.9円/kWh
2026年度8.6円/kWh(予定)
2027年度以降新設案件はFIT/FIP対象外へ

太陽光は低コストの再エネ電源として世界中で導入量が急激に伸びています。しかし日本では、営農型を含む地上設置型について、実際のコストよりもFIPの入札上限価格が低く設定されている状況であり、まだ政策支援を打ち切るタイミングではありません。

陸上風力の状況も同様に深刻です。

2019年末〜2024年末の5年間の導入量1.8GWにとどまる
FIT設備認定を受けた未稼働量10.2GWが存在
資機材高騰の影響で建設は進まず
FIP入札上限価格の推移2023年度:13円/kWh
2026年度:11.8円/kWh(予定)

認定を取得しても建設できない10.2GWという巨大な未稼働在庫は、現行制度が機能不全に陥っていることの明確な証拠です。

FIPとCfDの決定的な違い

CfDとFIPは、発電事業者が直接市場で売電する点、政府が決定する「基準価格(Strike-Price、ストライクプライス)」と市場価格との差分を補填する点では同じです。しかし、重要な違いがいくつかあります。

01

基準価格の設定思想

CfD(英国)

  • 「事業コストが回収できるか」「LCOE+適正利潤をカバーできるか」を意識
  • 事業として成立するかどうかを明確に意識した制度設計

FIP(日本・EU)

  • 電力市場での売電収入をプレミアム(基準価格と市場価格の差)で補填する仕組み
  • 事業として成立するかどうかという点を明確には意識していない
  • 基準価格の決定には政策判断が入りやすく、プレミアムが低くなる傾向
02

参照期間(価格変動リスク)

CfD(英国)

  • 1時間平均で算出
  • 価格変動を瞬時にカバー
  • 価格変動リスクがほぼゼロ

FIP(日本・EU)

  • 1ヶ月平均で算出
  • 市場価格が低いときと高いときが相殺されてしまう
  • 補填の機会を逸しやすい
  • 価格変動リスクが残る
03

市場高騰時の扱い(最も重要な違い)

CfD(英国)

  • 市場価格が基準価格を上回ると、差額を国に返却(還元)
  • 双方向の差額調整
  • 棚ぼた利益を享受できない代わりに、基準価格は高い水準に設定

FIP(日本・EU)

  • 市場価格が基準価格を上回ると、そのまま事業者が取得
  • 片方向の差額調整
  • 棚ぼた利益を享受できる代わりに、基準価格は低い水準に設定

EUでは、2021年後半から2022年のガス価格暴騰に伴う卸電力価格の高騰で電気料金が上昇した一方、FIPを利用する発電事業者は棚ぼた利益を享受しました。これに批判が集まり、一時的に上限(キャップ)を導入することとなりました。こうした課題を解決する目的もあり、EUはFIPからCfDへ軸足を移すことにしました。

04

物価連動

CfD(英国)

  • 物価変動(消費者物価指数:CPI)に連動
  • インフレの影響を受けない

FIP(日本・EU)

  • 物価変動に連動しない
  • インフレ環境下で機能不全に陥る構造的欠陥

この物価連動の有無が、インフレ環境下でのCfDとFIPの決定的な違いを生んでいます。

英国のCfD成功事例:機敏な対応で応札量を回復

英国は世界に先駆けて洋上風力を推進し、現在は中国に次いで世界第2位の15GWの導入量を誇ります。2014年にCfD入札を導入し、これまでに6回の公募入札(AR1〜AR6)を実施、落札容量は34GWに上ります。そのうち65%に当たる22GWが洋上風力です。

英国のCfD運用で最も注目すべきは、失敗から素早く学び、機敏に対応した点です。

AR1〜AR4の成功

  • 入札上限価格(ASP)の低下と落札容量の拡大を両立
  • 洋上風力の応札価格が急激に下がる
  • 当局は「洋上風力はまだ価格が下がる」と思い込み、ASPを下げ続ける

AR5(2023年)の失敗

  • インフレが顕著になったにもかかわらずASPを低く設定
  • 結果:応札がゼロ

AR6(2024年)の速やかな修正

  • ASPを66%も大幅に引き上げ
  • 応札量を持ち直させることに成功
  • 誤った認識に気づくと、速やかに修正したことは評価に値する

AR7(2025年)のさらなる改善

  • ASPをさらに11%引き上げ
  • 期間を15年から20年に延長
  • 落札容量10GWを視野に入れる

期間延長により、初期コストは変わらずに期中の発電電力量が増えるため、発電コスト(kWh当たりのコスト)が低下します。また、金融機関の不安をより払拭できるため、金融コストを引き下げる効果もあります。

このように、英国はCfDを駆使して環境変化に機敏に対応しています。さらに、ASPを物価変動に連動させるため、インフレの影響も受けません。価格変動リスクを長期にわたり回避できる仕組みにしていることから、格段に投資判断しやすいのです。

EUも2027年7月までにCfDへ移行:前倒しの動き

洋上風力の応札量が回復した英国とは対照的に、EU諸国は2024年以降、各国で応札ゼロが相次ぎました。

ドイツ2024年8月
デンマーク2024年12月
フランス2025年9月(実質応札ゼロ)
オランダ2025年10月
EU諸国の応札ゼロ連鎖

EUの洋上風力はFIP制度の下で、やはり価格低下・容量拡大の道を歩みました。その結果、市場価格以下(補助ゼロ)での応札が定着してしまったことで、2024年の電力市場改革でCfD導入を決定しました。

当初は2027年7月までに開始する予定でしたが、洋上風力の導入量拡大が喫緊の課題となっていることから、前倒しの実施となりそうです。

デンマーク12月10日にCfD入札に向けた募集が開始
ポーランド、ベルギー、イタリア物価連動を導入する方針
フランス、スペイン制度設計を急ピッチで進行中
CfD導入の動き

物価変動への連動は加盟国ごとに判断することになりますが、先行して導入を検討している国々は物価連動を採用する方向です。

日本の入札価格は国際水準の半分:衝撃的な格差

英国AR7のASPと日本のFIP入札上限価格を比較すると、衝撃的な格差が明らかになります。

電源英国AR7日本FIP格差
洋上風力(着床式)22.6円/kWh18円/kWh4.6円差
洋上風力(浮体式)54.2円/kWh36円/kWh18.2円差
陸上風力18.4円/kWh12円/kWh6.4円差
太陽光15.0円/kWh9円/kWh6円差
価格比較(英国AR7 vs 日本)

注目すべきは、英国がAR6からAR7にかけて、洋上風力を約11%、陸上風力を3.4%引き上げる一方で、太陽光は約12%下げている点です。これは、技術ごとのコスト動向を細かく反映した結果です。

一方、日本の入札上限価格は、いずれの電源でも現在の英国のASPを大幅に下回っています。つまり、日本の入札上限価格は国際水準と比較して低すぎると言わざるを得ません。

英国のAR7の着床式洋上風力のASPは約22.6円/kWhですが、日本と英国では各種パラメーターが異なります。

風況での設備利用率日本35% vs 英国50%
運転実績の稼働率日本88% vs 英国92%
サプライチェーンの内外価格差1.4倍
日本と英国のパラメーター比較

これらのパラメーターの違いを反映して換算すると、日本価格は36円/kWh程度になります。

また、英調査会社Wood Mackenzieは2024年10月に、世界の洋上風力発電の平均LCOEは230ドル/MWh(約36円/kWh)と発表しました。この金額は上記の試算と重なります。

つまり、日本の18円/kWhという入札上限価格は、実際のコストの半分程度しかカバーしていないということです。これでは、どれだけ効率化しても事業として成立しません。

CfDは「三方良し」の制度設計

CfDの本質は、次の3者すべてにメリットをもたらす「三方良し」の制度設計にあります。

再エネ発電事業者

  • 基準価格がLCOE+適正利潤を意識して設定される
  • 物価連動により、インフレリスクから保護される
  • 価格変動リスクが長期にわたり回避できる
  • 事業予見性が格段に高まる

電力購入者(企業・需要家)

  • クリーンな電力を安定的に調達できる
  • コーポレートPPAとの連携が容易
  • 売電価格が設定しやすくなる

政府(国民)

  • 再エネ導入目標を達成できる
  • 市場価格高騰時は国に返還されるため、
    棚ぼた利益による国民負担の議論を封印できる
  • 制度の公平性と透明性が向上

このように、CfDは単なる価格支援制度ではなく、再エネ普及のエコシステム全体を最適化する制度設計となっています。

記事では「少なくともサプライチェーンが整備されるまでの間はCfDを活用すべきだ」と結論づけています。その理由は明確です。

現状のFIPの構造的欠陥

  • 基準価格が「売電収入の補填」を意識し、事業成立を明確に意識していない
  • 物価連動しないため、インフレ環境下で機能不全に陥る
  • 市場高騰時に棚ぼた利益を享受できるため、
    基準価格が低く設定される傾向
  • 1ヶ月平均の参照期間により、補填機会を逸する

CfD導入のメリット

  • 事業コスト回収を前提とした制度設計
  • 物価連動により、環境変化に自動対応
  • 双方向の差額調整により、公平性が向上
  • 事業予見性の向上により、投資判断が容易に
  • コーポレートPPAとの連携が進む

日本固有の課題への対応

  • サプライチェーンが未整備な中、適正な価格水準の設定が不可欠
  • 国際水準と比較して低すぎる入札価格の是正
  • 再エネ導入の停滞を打破するための抜本的改革

EPC事業者としての戦略的対応

CfD導入議論は、EPC事業者にとって注視すべき重要な制度変更の可能性です。

01

CfD導入時期の見極め

制度議論の動向を注視し、CfD導入の兆しが見えた段階で、新しい制度下での事業スキームを速やかに理解・提案できる準備が必要です。特に、基準価格の設定方法、物価連動の仕組み、双方向の差額調整メカニズムなどを理解しておくことが重要です。

02

既認定案件の戦略的価値の再評価

FIPが機能不全に陥り新規開発が滞る中、既認定案件の権利は相対的に価値が高まります。特に、FIT/FIP廃止が新設案件のみとなったことで、既認定案件を2027年度までに確実に実行することが、短期的な収益確保につながります。

03

PPAスキームへの注力

FIP入札で落札価格7.13円/kWhと市場価格より低く、オフサイトPPAの相場(14円/kWh前後)の方が高い現状では、FIT/FIP非依存のPPAスキームが主流となります。CfDが導入されれば、売電価格の予見性が高まり、コーポレートPPAとの連携が容易になるため、PPA提案力の強化が競争優位性につながります。

04

国際水準の価格情報の収集

英国AR7のASPや世界平均LCOEなど、国際的な価格水準を把握することで、日本の入札上限価格の妥当性を客観的に評価できます。顧客への提案時に、「国際水準と比較して日本の価格設定がどの程度適正か」を説明できる能力は、提案の説得力を高めます。

「補助金を出しているふり」から脱却

日本の再エネ支援策であるFIPは、インフレ環境下で完全に機能不全に陥っています。太陽光、陸上風力、洋上風力のすべてで新規開発が停滞し、特に陸上風力では10.2GWという巨大な未稼働在庫が積み上がっています。

FIPの構造的欠陥は、基準価格が「売電収入の補填」を意識し事業成立を明確に意識していない点、物価連動しない点、市場高騰時に棚ぼた利益を享受できるため基準価格が低く設定される点にあります。結果として、「補助金を出しているふりをして、実質的には事業を不可能にする」という状況が生まれています。

一方、英国やEUが移行するCfDは、基準価格がLCOE+適正利潤を意識し物価連動、市場高騰時は国へ返還する双方向の差額調整により、再エネ発電事業者、電力購入者、政府の三方すべてにメリットをもたらす制度設計です。

そして最も衝撃的なのは、日本の入札上限価格が国際水準の半分程度しかないという現実です。洋上風力で英国22.6円/kWh対し日本18円/kWh、陸上風力で英国18.4円/kWhに対し日本12円/kWh、太陽光で英国15.0円/kWhに対し日本9円/kWh——この格差は、日本の再エネ政策が「実際のコストを無視している」ことを明確に示しています。

2027年度以降の制度変更の可能性を見据え、EPC事業者として新しい制度下での事業スキームを理解し、提案できる準備を進める必要があります。