五島洋上ウィンドファームにおける風車8基の全景

出典:戸田建設

みなさん、こんにちは!

今日は、長崎・五島沖で日本初の商用規模「浮体式洋上風力発電所」が運転開始したニュースを共有します。

戸田建設を代表とする6社が、2019年12月の促進区域指定から約6年をかけて実現した本格稼働です。風車8基(出力計16.8MW)により約1.6万世帯分の電力を供給し、再エネ海域利用法に基づく国内第1号認定案件として、複数風車を備えた商用規模の浮体式洋上風力は国内初の事例となります。

洋上風力と太陽光は技術領域が異なりますが、このプロジェクトが示す「法制度による事業予見性の向上」「複数事業者によるリスク分散」「地域連携の徹底」「独自技術による差別化」という成功要因は、太陽光分野にも多くの示唆を与えます。

特に、系統制約・出力制御・保険リスクなど事業環境の不確実性が増す太陽光業界にとって、6年をかけて慎重に事業化を進めた五島モデルは、「短期的な収益追求」から「長期的な事業継続」へという価値観の転換を促すものです。

五島洋上ウィンドファーム、6年をかけた本格稼働

戸田建設を代表とする6社の合同会社「五島フローティングウィンドファーム」が、長崎県五島市沖で浮体式洋上風力発電所「五島洋上ウィンドファーム」の商用運転を2026年1月5日に開始しました。

事業概要

参画企業(6社)

  • 戸田建設(代表企業)
  • ENEOSリニューアブル・エナジー
  • 大阪ガス
  • INPEX
  • 関西電力
  • 中部電力

発電規模

  • 新設風車:8基(1基あたり2.1MW)
  • 合計出力:16.8MW
  • 既存1基(戸田建設が2016年から先行稼働)と合わせて約19MW
  • 供給規模:約1.6万世帯分

事業期間

  • 2019年12月:促進区域指定
  • 2021年10月:合同会社設立
  • 2026年1月:商用運転開始
  • 約6年の事業化期間

技術的特徴:世界初「ハイブリッドスパー型」

風車の配置模式図

出典:戸田建設

発電所の浮体構造は、浮体の上部に鋼、下部にコンクリートを組み合わせた「ハイブリッドスパー型」を採用しました。この構造は戸田建設が世界で初めて実用化した技術であり、設計から施工までを一貫して手がけました。

風車本体の全長は176.1m、ローター径は80mで、風車の支柱を海中に浮かせ、チェーンで係留する方式です。水深が深い海域でも設置可能なこの技術は、日本の海洋地形に適した洋上風力の形態として注目されています。

今回のプロジェクトは、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」に基づき、経済産業大臣および国土交通大臣から公募占用計画の認定を受けた国内第1号の案件です。

再エネ海域利用法は2019年に施行され、通常よりも簡素な手続きで海域の長期利用ができる枠組みを提供しています。この法整備が、大規模インフラ投資に必要な「安定した事業基盤」を可能にしました。

再エネ海域利用法が切り拓いた「長期・安定的な事業環境」

今回のプロジェクトが示す最も重要なポイントは、法整備による事業予見性の向上です。

洋上風力発電は、太陽光に比べて初期投資が桁違いに大きく、事業化には長期の占用権が不可欠です。再エネ海域利用法は、以下のメリットを提供します。

  • 通常よりも簡素な手続き
  • 海域の長期占用権の保証
  • 国の促進区域指定による事業環境の明確化
  • 公募占用計画の認定による事業の正統性

この枠組みにより、約6年という長期にわたる事業化プロセスを、複数企業が安心して推進できました。

一方、太陽光分野では近年、事業環境の不確実性が増しています。

太陽光が直面する課題

  • 系統制約の深刻化(接続可能容量の逼迫)
  • 出力制御の増加(発電しても売電できないリスク)
  • 保険リスクの拡大(ケーブル盗難で保険金額5年で20倍)
  • FIT/FIP制度の縮小・廃止
  • 環境アセス対象の拡大

FIT制度が事業化を加速させた一方で、制度の見直しや市場環境の変化により、「短期的に利益を確保する」モデルから「長期的に事業を継続する」モデルへの転換が求められています。

洋上風力における法整備と長期占用の枠組みは、「再エネ事業に求められる制度設計のあり方」を示す先行事例です。太陽光においても、事業予見性を高める制度設計(例:系統連系の長期保証、出力制御補償、地域共生型への支援など)が必要です。

「地産地消モデル」と地域経済への組み込み

五島プロジェクトのもう一つの重要な特徴は、地域連携の徹底です。

発電した電力を地域の小売電気事業者に優先供給し、エネルギーの地産地消につなげるとしています。単なる「発電して売電する」モデルではなく、地域のエネルギー自給率向上に貢献するという明確な地域価値を示しています。

建設段階から多くの地元企業が参画しており、今後の運転管理でも地域と連携する方針です。これにより、次の効果が期待されます。

  • 地域への雇用創出
  • 地域企業の技術力向上
  • 地域経済への長期的な価値還元
  • 地域との信頼関係の構築

太陽光発電においても、地域との関係構築は重要性を増しています。

地域との対立構造の事例

  • メガソーラー開発を巡る住民反対運動
  • 環境破壊を伴う乱開発への批判
  • 自民党のメガソーラー支援廃止決定

政府が2027年度から野立て太陽光のFIP支援を廃止し、屋根置きや地域共生型への支援に重点化する背景には、こうした地域との対立があります。

求められる地域共生型のアプローチ

  • 地元雇用の創出
  • 地域企業との協業
  • 災害時の電力供給計画
  • 地域インフラ整備への協力
  • 発電所を「地域資産」として位置づける

特に地方では、発電所設置に対する地域の理解と協力が事業継続の前提条件となりつつあり、「建てて終わり」ではなく、「地域とともに運営する視点」が今後さらに求められます。

複数事業者によるリスク分散体制の価値

五島プロジェクトは、戸田建設を代表とする6社体制で推進されました。この複数事業者による体制は、各種リスクを分散する重要な仕組みです。

リスク分散の構造

技術リスク

  • 戸田建設:世界初の「ハイブリッドスパー型」浮体構造の設計・施工
  • 技術検証に時間をかけ、確実性を高める

資金リスク

  • ENEOS、大阪ガス、INPEX、関西電力、中部電力:資金提供
  • 大規模投資を複数企業で分担

運営リスク

  • 長期の運転管理を複数企業で支える体制
  • 単独企業の撤退リスクを低減

太陽光分野でも、保険引受環境の悪化や系統制約の深刻化により、単独事業者による案件推進が困難になるケースが増えています。

特に、盗難対策や出力制御対応など、新たなリスクへの対処が必要な状況では、各分野の専門企業と連携した提案が事業実現性を高めます。

独自技術による差別化と競争力確保

戸田建設の「ハイブリッドスパー型」浮体構造は、世界初実用化の独自技術として事業の核となっています。

独自技術を持つことで、次のメリットが生まれます。

  • 競合との明確な差別化
  • 技術優位性による受注競争力
  • 長期的な事業基盤の構築
  • 知的財産としての価値

設計から施工まで一貫して手がけることで、技術ノウハウが社内に蓄積され、次のプロジェクトへの展開が可能になります。

太陽光でも、標準設計の域を超えた技術提案が差別化要素になります。

技術的差別化の具体例

  • 地域特性に応じた架台設計(積雪、強風、塩害対応)
  • 盗難対策技術の統合(AI威嚇、ドローン警備)
  • ドローン点検システムの標準化
  • 蓄電池との最適統合設計
  • 出力制御を最小化する系統連系設計

これらの技術的付加価値を持つことが、受注競争力につながります。特に、新しい課題(盗難、出力制御、保険リスク)への対応技術を先行して確立することは、市場での優位性を生みます。

「6年」という時間軸が示す長期事業化の重要性

五島プロジェクトは、促進区域指定から商用運転まで約6年を要しました。この期間は、技術検証、地域合意形成、事業体制構築に充てられています。

長期スケジュールの内訳

  • 2019年12月:促進区域指定
  • 2021年10月:合同会社設立(約2年)
  • 2026年1月:商用運転開始(さらに約4年)

この6年という時間は、「拙速に進めず、確実に事業化する」というアプローチの表れです。

太陽光においても、特に大規模案件では、事業化の長期化が進んでいます。

長期化の要因

  • 系統連系協議の長期化(系統容量の逼迫)
  • 環境アセスメント対応(30MW未満も対象化の方向)
  • 地域との調整プロセス(住民説明会、合意形成)
  • 電気事業法による規制強化(保安規制)

この現実を踏まえると、初期段階から長期スケジュールを見据えた提案が求められます。「短期間で利益を確保する」モデルから、「長期的に安定した事業を構築する」モデルへの転換が必要です。

EPC事業者としての5つの学び

五島プロジェクトから、太陽光EPC事業者が学ぶべきポイントを整理します。

01

長期事業化を前提とした初期設計

太陽光においても、系統連系の長期化、環境アセスメント対応、地域との調整プロセスが事業化の前提となりつつあります。

対応策

  • 初期段階から2〜3年の事業化期間を想定
  • 系統連系の見通しを早期に確認
  • 環境アセスが必要な規模かを事前評価
  • 地域説明会のスケジュールを組み込む
02

複数事業者によるリスク分散体制の提案

単独事業者では対応困難なリスクが増えている中、連携体制を提案に組み込むことが重要です。

連携体制の例

  • 金融機関との協調融資
  • O&M事業者との長期契約
  • 地域企業との協業体制
  • 蓄電池事業者との統合提案
03

独自技術による差別化

標準設計を超えた技術的付加価値が、受注競争力につながります。

差別化技術の例

  • 盗難対策の標準統合
  • ドローン点検の自動化
  • 出力制御対応の最適設計
  • 地域特性に応じた架台カスタマイズ
04

地域連携を組み込んだ事業モデル

地域インフラとしての側面が強まる中、地域貢献を明確化した提案が重要です。

地域連携の具体策

  • 地元雇用の創出計画
  • 地域企業との協業体制
  • 災害時の電力供給計画
  • 地域インフラ整備への協力
05

法制度変化への対応力

制度環境の変化を先読みし、「制度変化に強い設計」を提案できることが価値となります。

制度変化への対応例

  • FIP制度への移行準備
  • 出力制御ルールの理解と対策
  • 環境アセス対象拡大への準備
  • 電気事業法の保安規制への適合

短期的収益追求から長期的事業継続へ

五島沖の浮体式洋上風力は、技術実証から商用化への移行を果たした象徴的な事例です。

成功要因のまとめ

  • 法制度の整備(再エネ海域利用法)
  • 複数企業による事業体制(6社連合)
  • 地域連携の徹底(地産地消、地元企業参画)
  • 独自技術の実用化(ハイブリッドスパー型)
  • 長期的視点での事業化(6年の準備期間)

これらの要素が組み合わさることで、大規模再エネプロジェクトが実現可能になることを示しています。

太陽光分野でも、系統制約や保険リスクといった新たな課題に直面する中で、事業環境の変化を先読みし、必要な対策を初期段階から組み込む「予防的設計」がますます重要になっていきます。

FIT制度による「短期的な収益追求」の時代から、地域共生型・長期安定運営を前提とした「持続可能な事業モデル」への転換が求められています。

五島プロジェクトが6年をかけて慎重に進めたように、太陽光事業においても「拙速に利益を追うのではなく、確実に長期事業を構築する」という価値観の転換が、これからの成功の鍵を握ります。

2027年度の野立て支援廃止、屋根置き市場の本格化、次世代太陽電池の実用化という大きな転換点において、「短期」ではなく「長期」、「単独」ではなく「連携」、「標準」ではなく「差別化」という新しい事業観が、EPC事業者の競争力を左右します。