みなさん、こんにちは!
今日は、営農型太陽光発電における新しい架台技術について共有します。
スマートブルーがヤンマーホールディングスから受注した水田での営農型太陽光は「一本足架台」を採用し、従来の藤棚型が抱えていた労働生産性低下と連鎖倒壊リスクを解決しました。
一方、北海道岩見沢市の豪雪地帯では垂直型パネルを採用し、積雪による架台損壊リスクを回避しています。地域特性に応じた技術選択が、営農型太陽光の実用性を大きく左右する時代になっています。
スマートブルーとヤンマーが挑む水田での営農型太陽光
スマートブルー株式会社は、ヤンマーホールディングス株式会社から、滋賀県栗東市での営農型太陽光発電建設工事を受注しました。
| 場所 | 滋賀県栗東市の水田 |
| 面積 | 約4,200㎡ |
| 発電出力 | 66kW |
| 作物 | お米 |
| 発電事業者 | ヤンマーホールディングス |
| 営農者 | ヤンマーシンビオシス |
本事業は、ヤンマーホールディングスが推進する「SAVE THE FARMS by YANMAR」の一環で行われます。
このプロジェクトは、農業従事者の高齢化と後継者不足に伴う耕作放棄地の増加という深刻な課題に対して、「環境再生型農業」×「営農型太陽光発電」の2つのテクノロジーの掛け合わせによって持続可能な農業のあり方を追求していく取り組みです。
スマートブルーは、農林水産省が営農型太陽光発電に関する通達を発出した2013年当初から事業を展開し、これまで100件を超える事業を組成してきた経験と知見を有しています。
「一本足架台」が解決する営農型太陽光の構造的課題
従来の藤棚型営農型太陽光は、ボックス構造をつなぎ合わせた設計のため、以下の課題を抱えていました。
課題1:労働生産性の低下
- 架台支柱が圃場内に林立する
- トラクターなどの農機具の運用効率が低下
- 作業動線が制約される
課題2:連鎖倒壊のリスク
- ボックス構造を繋ぎ合わせた構造
- 一箇所が倒壊すると連鎖的に倒壊する危険性
- 台風や強風時のリスクが高い
これらは、営農型太陽光が「農業と発電のトレードオフ」として長年指摘されてきた本質的な問題です。
今回採用された一本足架台は、これらの課題を解決する革新的な設計です。
一本足架台の特徴
- 部材数が少ない:シンプルな構造で設置自由度が高い
- 独立性が高い:各架台が独立しており連鎖倒壊リスクを抑制
- 圃場の一画のみに設置:大部分は以前と変わらない営農が維持できる
- 農機具の運用効率を維持:支柱による作業効率低下を最小化
さらに重要なのは、設備を圃場の一画のみに設置することで「大部分は以前と変わらない営農が維持される」という点です。
これは営農型太陽光が抱える「農業と発電のトレードオフ」を最小化するアプローチであり、農業委員会や地域農業者の懸念を払拭する上で非常に有効です。
水田における新しいビジネスモデル――マコモダケ栽培の実証
スマートブルーは、営農型太陽光の新モデルとして、静岡県浜松市にモデル圃場「スマートブルー浜松農場」を開設しています。
| 場所 | 静岡県浜松市の水田耕作放棄地 |
| 面積 | 一本足架台 |
| 年間発電量 | 約11万7,000kWh |
| 作物 | マコモダケ |
| 電力販売 | UPDATERの「ピーパ」へ卸供給 |
| 制度 | FIT・FIP非依存 |
栽培するマコモダケは、イネ科の植物であるマコモの茎が肥大化したものです。
マコモダケの特徴
- 中華料理では一般的な食材
- 見た目や食感がタケノコに似る
- クセが少なくさまざまな料理に合う
- イネと同じく水田で栽培できる
- ソーラーシェアリング下でも問題なく生育
- 水稲と比較して数倍の反収が見込める
これまで2年間にわたって試験的に栽培してきた結果、水田での栽培に適しており、営農型太陽光との相性も良いことが確認されています。
近年、水田の耕作放棄地が増加しており、その大きな要因が米価下落による離農です。
水田におけるビジネスモデルの転換が求められています。
新しいビジネスモデル
- 営農者は農業収入に加えて発電事業者から耕作委託料を得られる
- 高収益作物(マコモダケなど)と発電収入の組み合わせ
- 経営の安定化と持続可能な農業の実現
FIT非依存モデルへの移行が加速
スマートブルーの静岡県浜松市モデル圃場が「FIT・FIPを利用しない」方針を明示している点は、営農型太陽光の事業モデル転換を象徴しています。
発電した電力はUPDATER(東京都世田谷区)が提供するクラウド型太陽光発電サービス「ピーパ」へ卸供給する仕組みで、PPA(電力購入契約)に類似したスキームです。
従来モデル
- FIT制度に依存
- 固定価格での買取
- 制度変更リスク
新モデル
- FIT・FIP非依存
- 電力卸供給サービスへの供給
- 市場連動型の柔軟な事業運営
- 営農者への耕作委託料支払い
この構造は、今後の営農型太陽光の標準モデルになる可能性があります。
豪雪地帯では「垂直型パネル」が現実的な選択肢
一本足架台は優れた技術ですが、豪雪地帯では雪の重さで倒壊するリスクがあります。
株式会社H.Eエナジーと三井住友トラスト・パナソニックファイナンス株式会社は、北海道有数の豪雪地帯である岩見沢市において、垂直型パネルを採用したソーラーシェアリングを稼働させました。
豪雪地帯への太陽光発電設備の導入は、技術的な課題から困難とされてきました。
従来型の傾斜パネルの問題
- 短時間で大量の降雪が発生
- 雪が滑り落ちる前にパネルに蓄積
- 雪の重みによって架台が変形・倒壊
地面に設置する従来型の傾斜型の野立て太陽光設備では、この問題を避けることができませんでした。
こうした豪雪地帯特有の課題に対応するため、以下の仕組みを採用しています。
垂直型太陽光パネルの採用
- パネルを垂直に設置することで積雪の蓄積を最小限に抑える
- 雪の重みによる架台の損壊リスクを大幅に軽減
- パネル表面に雪が積もらない構造
両面発電パネルの採用
- 地表面に積もった雪からの反射光を効率的に活用
- 発電量を増加(アルベド効果)
- 太陽光パネルが発電し表面温度が上昇することで
パネル表面に付着した雪の融雪を早める効果
この農地では、H.Eエナジーのグループ会社であるH.Eファームがかぼちゃの栽培を行っており、収穫されたかぼちゃは国内へ出荷されています。
収益構造
- 農業収益(かぼちゃ栽培)
- 太陽光発電による再エネ電力の収益
- 発電収益の一部を耕作者に還元
この仕組みにより、農業経営の安定化と持続可能な農業の実現をサポートし、地域全体の活性化に貢献しています。
地域特性に応じた技術選択の重要性
営農型太陽光の実用性は、地域特性に応じた技術選択で大きく変わります。
温暖地域・平野部:一本足架台
適用地域
- 積雪が少ない地域
- 比較的平坦な水田
- 関東、東海、近畿、瀬戸内など
メリット
- 労働生産性を維持
- 連鎖倒壊リスクの低減
- 従来通りの営農が可能
- 設置の自由度が高い
豪雪地帯:垂直型パネル
適用地域
- 積雪量が多い地域
- 短時間の大量降雪がある地域
- 北海道、東北日本海側、北陸など
メリット
- 積雪による倒壊リスクを根本から回避
- 雪面からの反射光を活用(両面発電)
- 融雪効果によるメンテナンス負担軽減
- 安定した発電が可能
このように、地域特性に応じて技術を選択する必要があります。
水田の耕作放棄地問題への解決策
近年、水田の耕作放棄地が増加しており、米価下落による離農が大きな要因となっています。
水田が抱える課題
- 米価下落による収益性の低下
- 高齢化と後継者不足
- 耕作放棄地の増加
- 地域農業の衰退
営農型太陽光と高収益作物を組み合わせることで、この課題に対する有効な解決策を提示できます。
マコモダケの可能性
- 水稲と比較して数倍の反収
- 水田で栽培可能
- ソーラーシェアリング下でも生育良好
- 新しい特産品としての可能性
収益の多角化
- 農業収入(高収益作物)
- 発電事業者からの耕作委託料
- 経営の安定化と後継者確保の可能性
スマートブルーは、離農が進む水田の新たな作物としてマコモダケを提案していく方針を示しています。
収益構造
- 農業収益(かぼちゃ栽培)
- 太陽光発電による再エネ電力の収益
- 発電収益の一部を耕作者に還元
この仕組みにより、農業経営の安定化と持続可能な農業の実現をサポートし、地域全体の活性化に貢献しています。
再エネ事業者にとっての新しい提案機会
営農型太陽光における新しい架台技術は、再エネ事業者にとって重要な提案機会を生み出しています。
地域特性に応じた技術選定の提案力
豪雪地帯
- 垂直型パネルの提案
- 両面発電による発電量確保
- 積雪リスクを説明した上での安心感提供
温暖地域
- 一本足架台の提案
- 労働生産性維持を訴求
- 従来通りの営農が可能なことをアピール
水田の耕作放棄地への総合提案
- 高収益作物の栽培提案(マコモダケなど)
- 農業収入+耕作委託料の収益モデル提示
- 「農業課題の解決手段」としての位置づけ
FIT非依存モデルの設計支援
- 地域新電力や需要家とのマッチング
- クラウド型太陽光発電サービスとの連携
- FIT終了後の出口戦略
技術選択が切り拓く営農型太陽光の未来
営農型太陽光の実用性は、地域特性に応じた技術選択で大きく変わります。
これまで営農型太陽光は「農業の生産性を犠牲にして発電する」という批判を受けてきました。
しかし、一本足架台や垂直型パネルといった新技術の登場により、この構図は変わりつつあります。
重要なのは、画一的な設計ではなく、その土地の気候、作物、営農スタイルに合わせた最適な技術を選択することです。
温暖地の水田と豪雪地帯では、求められる解決策がまったく異なります。
単なる発電設備の設置だけでなく、農業課題の解決、地域経済の活性化、持続可能な農業の実現といった総合的なソリューション提供力が求められる時代になっています。
地域特性を深く理解した技術選択能力が、今後の営農型太陽光市場で重要な競争力となるでしょう。
ヤンマーホールディングスが「SAVE THE FARMS by YANMAR」という理念のもと営農型太陽光に本格参入したことは、大手企業が農業の持続可能性という課題に真剣に向き合い始めた証です。
この流れは、農機具メーカーや食品メーカーなど、農業に関わる多くの企業に広がっていく可能性があります。
