みなさん、こんにちは!
今日は、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の普及に向けた課題と可能性について共有します。
三菱総合研究所の丸谷華織シニアコンサルタントのインタビューから、「ポテンシャルは膨大なのに導入が進まない」というギャップの背景にある、構造的な要因が浮き彫りになっています。
導入ポテンシャルは770〜1,593GW。その一方で実導入は数百MW
環境省やJPEAの試算では、営農型太陽光の導入余地は数百GWから1,500GW超と極めて大きいとされています。特に、稲作・畑作地帯の広大な面積が大きなポテンシャルの源です。
しかし、実際の導入量は数百MW規模にとどまり、その差は歴然としています。
丸谷氏が指摘するポイントは次のとおりです。
- ポテンシャル値は「最大限導入できる前提」を置いた数字
- 事業性・農業との整合性を考慮すると規模は大幅に縮小
- JPEAの経済性を加味した試算では106.2GWまで下がる
つまり、紙の上では巨大な市場でも、現場レベルでは大きな制約が立ちはだかっています。
普及を妨げる“二つの壁”:発電の壁と農業の壁
営農型太陽光の普及課題は「発電事業」と「農業」の両側面に存在します。
発電事業側の課題
- 農地の一時転用許可が煩雑
- 3年/10年更新による長期融資の難しさ
- FIT価格下落による事業性悪化
- 20年間の事業計画が立てにくい
特にファイナンス面が大きな障壁で、更新リスクにより銀行の融資判断が慎重になりがちです。
農業側の課題
- パネル下での不適切な営農事例が増え、農業委員会の不信を招く
- サカキ・シキミなど、食料生産と乖離した作物が多い
- 稲作は陽性作物のため相性が悪く、収量変動の研究も途上
- 「農地を守る」農業委員会の立場から慎重姿勢が強い
このように、営農型太陽光は制度・農業慣行・金融の三つの壁に阻まれています。
普及の突破口は“発電で儲けるモデル”からの脱却
丸谷氏が強調する最も重要な点は、「営農型太陽光は、農業の課題を解決する手段として考えるべき」という視点です。
FIT時代のように「太陽光で儲ける」構造はすでに成立しにくく、今後は以下の価値が事業性を左右します。
- 農業所得の安定化
- 後継者不足対策
- 耕作放棄地の減少
- 農村地域の維持・活性化
PPAスキームでも、「営農価値」が企業側に評価されることで電源価値が高まる可能性があり、単なる発電設備ではなく“農業と両立するエネルギー設備”であることが本質になります。
制度と現場のギャップが生む“悪循環”
制度面の課題は複雑で、一概に簡素化すれば良いわけではありません。
現状の悪循環
- 作物実績データが少ない
- 農業委員会が判断材料を持てない
- 事業者に追加資料を要求
- 手続きが煩雑になる
- 不適切事例が増える
- 地域の不信感が強まる
- 新規案件が進まない
- データが蓄積されない
丸谷氏は、この状況を打破するために
- 作物ごとの実績データベースの整備
- 申請プロセスのDX化
- フォーマットの統一
といった情報基盤整備の必要性を指摘しています。
地域と農業に寄り添った設計が鍵
営農型太陽光のEPCに求められるのは、設備建設だけではありません。
記事から整理すると、以下の視点が重要になります。
農業課題の解決を起点とした事業設計
発電収益より、地域農業の持続性を軸に設計する姿勢が求められます。
適切な作物選定の支援
地域の農業政策と整合し、食料生産と両立できる作物を選ぶことが信頼獲得の第一歩。
長期継続性を担保する体制づくり
農業法人との連携、若手農家との協働など、20年続く営農体制の確立がファイナンスにも直結します。
データ蓄積と情報開示
「成功事例を増やすこと」それ自体が普及の最大の推進力になります。
営農型太陽光は、770〜1,593GWという圧倒的なポテンシャルを持ちながら、現実には制度の壁・農業との不整合・金融の課題により普及が進んでいません。
しかし、茶畑ソーラーのような先進事例が生まれ、「農業課題の解決」という本質的な意義が再評価されつつあります。
EPCとしては、地域の農業とどう連携し、どのように持続的な仕組みを構築するかがますます重要になります。
