みなさん、こんにちは!

今回は、デンマークの再エネ大手Orstedが開催した国際AIコンペ「HEFTcom(Hybrid Energy Forecasting and Trading Competition)」を題材に、AIが再エネ市場取引をどう変えつつあるかを見ていきます。

このコンペでは、発電量の予測だけでなく、入札戦略まで含めた“AIによる収益最大化”を競いました。
結果は、「精度」よりも「戦略」を重視したチームが勝利を収めるという、非常に示唆的なものでした。

予測精度だけでは勝てない ― 成功の鍵は“戦略的AI”

HEFTcomには世界各国から66チームが参加し、英国の3.6GW級再エネ設備を対象に、AIを用いて発電量を予測し、入札量を決定する競技が行われました。
最優秀賞はスウェーデンの国営電力会社SvK、準優勝は米REint.AI、3位にデンマークVestasが続きます。

注目は、「最も精度の高い予測」をしたVestasが優勝できなかった点。
代わりに高い収益を上げたのは、「予測に基づき、どのタイミングでどれだけリスクを取るか」をAIで最適化したチームでした。
つまり、AIの“精度”よりも、戦略設計(取引判断)こそが収益を左右する要素だということです。

Transformerが変える気象予測と発電モデリング

REint.AIは、生成AIの中核技術であるTransformerモデルを独自に応用し、気象変動を高精度で捉える発電予測を実現しました。

Transformerはもともと自然言語処理の技術ですが、時系列データや雲画像などの気象データにも強い相関構造を学習できる点が特徴です。
日本気象協会や欧州中期予報センター(ECMWF)などもすでに導入を進めており、「AIによる気象×発電予測」分野の主流モデルになりつつあります。

一方で、上海交通大学チームは異なる戦略を採用。
発電量予測に加えて、市場価格とインバランス料金の差(価格スプレッド)を利用し、「収益が最大になる入札量」を算出する戦略的入札モデルを構築しました。
このモデルは、AIが市場の機会を見極め、リスクを取る意思決定を支援するもので、従来の「安全策的入札」とは一線を画しています。

AI時代の教訓 ― 予測と取引を“分けてはいけない”

HEFTcomの主催者であるグラスゴー大学のBrowell教授は次のように語っています。

ビジネスで重要なのは、予測精度ではなく収益だ。AIは予測と取引を一体の流れとして実装すべきだ

これはまさに、生成AIが「認識から生成」までを一体化した構造と同じです。
再エネ領域でも、「発電量予測 → 需給制御 → 市場入札 → 価格変動対応」をワンフローで最適化するAIモデルの導入が進みつつあります。

つまり、AIが「当てる技術」から「稼ぐ技術」へと進化しているのです。

EPC・アグリゲータが押さえるべき次の一手

EPC事業や蓄電シミュレーションの現場でも、この“AIによる予測 × 取引最適化”の思想は今後避けて通れません。

  • FIP連動モデルに対応した収益シミュレーション
  • 蓄電池容量提案にAI予測を組み込む容量最適化
  • 気象データ・市場価格・需要予測を統合する制御アルゴリズム設計

こうした領域でAIを実装できるかどうかが、今後のEPC・アグリゲータの差別化要因となります。

AIがもたらす再エネ市場の未来

今回のHEFTcomが示した最大の教訓は、「AIは精度の競争から、戦略の競争へ進化する」ということ。

再エネビジネスの最前線では、AIが“予測”と“取引”をつなぐ中核となり、市場におけるエネルギー価値の最大化を支えています。

次の10年、EPC・アグリゲータ・AI技術者の協働こそが、日本の再エネ競争力を決定づける鍵になるでしょう。