みなさん、こんにちは!

今日は、再生可能エネルギーの普及を支える基盤として注目が高まる長期エネルギー貯蔵(LDES)についてご紹介します。

住友重機械工業が年内に稼働させる「液化空気蓄電」は、日本で初めて商用化されるLDES技術の一つ。太陽光や風力の出力変動が増える中、従来の蓄電池では対応しきれない“長期間・大容量の電力貯蔵”を担う存在です。

液化空気蓄電とは何か──100MWを1日以上ためられる次世代蓄電

住友重機械が導入する液化空気蓄電(LAES)は、空気を−190℃で液体化し、使う際に再び気化させてタービンを回す仕組みです。

技術の特徴

  • 空気を700分の1に圧縮し貯蔵
  • 100MW超を1日以上蓄電可能
  • 10秒単位で充放電制御
  • LNG設備の冷熱利用で効率改善
  • 設置コストは揚水発電と同規模

従来のリチウムイオン蓄電池が「数時間〜半日」レベルなのに対し、液化空気は“日単位”での調整が可能。出力制御を根本的に減らすことができます。

2025年内には、広島ガスのLNG設備を併設する廿日市工場に国内初の商用設備が導入される予定です。

出力制御が頻発する理由──再エネが増えるほどバランスが崩れる

現在、日本では太陽光・風力の急増により、「昼に大量に余る/夜に長時間足りない」という需給の二極化が発生しています。

現在の課題

  • 東電を除く9エリアで出力制御が発生
  • 余った再エネが系統に流れ込むと停電リスク
  • 原子力の停止で“長時間の不足”も発生
  • 数時間対応の蓄電池では調整しきれない

マッキンゼーの試算では、再エネ比率が50%を超えるとLDESが必須インフラになると言われています。日本はまさにその入口に差し掛かっています。

液化空気・重力・CO2・水素…多様な技術が動き始めた

世界では、2020年代後半からLDESの商用化が急加速しています。

主なLDES技術

  • 液化空気(LAES):100MW級を1日以上蓄電
  • 重力蓄電:重りを上げ下げして発電(TMEICが開発)
  • CO2蓄電:CO2の圧縮・膨張で発電(日揮HDが参入)
  • 水素蓄電/岩石蓄熱/熱媒体蓄熱…

技術特性が異なるため、「場所×用途」に応じた最適設計が必要という点が特徴です。

日本の普及を阻む“制度の壁”──収入保証なきLDESは採算が合わない

LDESは「長時間ためて時々使う」ため、蓄電池のように電力市場だけで投資回収するのは困難です。

そのため海外では、

英国最低収入保証の制度にLDESを追加
ドイツ・豪州8時間超蓄電向け入札制度

といった強い後押しが行われています。

日本も2025年度から「長期脱炭素電源オークション」にLDES枠を新設しましたが、落札後4年以内の建設義務など、依然としてハードルは高い状況です。

日本が本格普及に向かうには、“収入保証型”などの制度整備が不可欠です。

「太陽光+LDES」は次の提案モデルになる

今後、EPCとしては以下の領域で新しい提案機会が生まれます。

01

出力制御が増えている地域での「併設LDES提案」

発電所の売電ロスを回避するため、LDESの併設は有力な選択肢になります。

02

既設発電所への“追加導入・アップデート需要”

九州・北海道のように出力制御が常態化している地域では、“蓄電後付け”の市場が形成される可能性大。

03

立地に応じた技術マッチング

LNG設備 → 液化空気蓄電(冷熱を利用)
採石場跡地 → 重力蓄電
工業地帯 → CO2蓄電

04

制度対応を見据えた事業モデル設計

制度が整う前に知見を蓄積しておくことで、大手との差別化につながります。

太陽光・風力が急増した結果、「作れば作るほど捨てられる」という矛盾が顕在化しています。

リチウムイオン蓄電池だけでは支えきれない再エネ電力を、“日単位でためる”LDESが強力に補完することで、日本の再エネは次のフェーズに進みます。

液化空気蓄電の商用化は、その象徴的な一歩です。
今後10年、日本のエネルギー基盤は“蓄電シフト”によって大きく変わります。