みなさん、こんにちは!
今回は、長野県茅野市の稲作農家・帶川恵輔さんの取り組みを紹介した記事をもとに、地域と共生する再エネの新しい形を考えていきます。
中山間地の現実を変えるソーラーシェアリング
帶川さんは、大学時代に自家農業の収支を見直した際、農機更新すら難しい経営状況に直面しました。その打開策として導入したのが「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」です。
南向きの畦の斜面や水田上に3mの架台を設け、稲作と発電を同時に行うことで、米の売上(年間40万円)に対し、売電収入は約200万円――およそ5倍の収入を実現しました。
さらに、パネル設置によって斜面の雑草が抑制され、草刈りの手間も軽減。
“稲作 × 再エネ”が農業の生産性と省力化の両立を可能にしています。
制度を味方につけた地域主導モデル
営農型太陽光は、農地転用のため3年ごとに地域農業委員会の許可を得る必要があります。
この際、同地域の平均収量の8割以上を維持する「8割要件」を満たさなければならず、農業をおろそかにしない制度設計がされています。
帶川さんは、遮光率を最適化し、他県の実績データや研究論文を活用して農業委員会の理解を得ながら許可を取得。
「規制があるからこそ信頼される」――制度を逆手に取ったアプローチです。
こうした厳格な基準は、地域と行政の信頼関係の土台でもあります。
太陽光が「地元の人のためのエネルギー」として根付く理由は、まさにここにあります。
地域共生型再エネがもたらす“心理的受容性”
山林伐採によるメガソーラーへの反発が強まる中、既存の農地を活用するソーラーシェアリングは、“暮らしと調和する再エネ”として注目されています。
帶川さんも「地元の人が自分たちの暮らしに役立つと感じられる再エネなら、見え方は全く違う」と語っています。
外部資本が入る大型開発ではなく、地元農家が主体の再エネ導入だからこそ、地域の人々に「共感」と「納得」が生まれやすいのです。
技術と制度の間にある“信頼”を設計する
営農型太陽光発電は、EPC事業者にとっても設計・法対応の難易度が高い領域です。
特に近年は、
- 構造計算書や強度証明の提出義務
- 台風・積雪への耐風・耐荷重基準
- 廃棄費用の事前積立制度(FIT改正)
といった新基準が整備され、技術面での信頼性がより強く求められています。
この流れは、単に「厳しくなった」だけでなく、信頼できるEPC事業者が選ばれる環境が整いつつあることを意味します。
また、FIT価格の下落により採算性は厳しくなっていますが、PPA(電力購入契約)などの市場取引を活用すれば、より柔軟な収益モデルの設計も可能です。
今後は、EPC側も「営農+発電」の両立を前提に、構造設計・影管理・コストシミュレーションを一体で提案する力が問われていくでしょう。
「地域で生み、地域で使う」エネルギーの未来へ
ソーラーシェアリングは、単なる再エネ技術ではなく、地域の暮らしと経済を守るための社会システムです。
中山間地のように大規模化が難しい地域でも、稲作と発電の両立によって「農業を続けられる選択肢」が増える。この事例は、再エネの社会的受容性と地域自立の両立を実現した象徴的な成功例と言えます。
これからの再エネは、“出力”よりも“信頼”の時代へ。
地域とともに成長するエネルギーこそが、次の日本の再エネの主役になるでしょう。
