みなさん、こんにちは!

今日は、国内マイクログリッド構築市場の拡大見通しと、送電網への蓄電池接続における「空押さえ」防止策の強化について共有します。

矢野経済研究所は2026年2月、国内マイクログリッド構築市場の調査結果を発表し、2025年度までの累計事業費を551億円、2030年度までに735億円、2040年度までに810億円に達すると予測しました。

注目すべきは、マイクログリッドの位置づけが「防災・レジリエンス強化」から「平常時の脱炭素化推進」へと変化していることです。卒FIT電源の活用先として、太陽光に加えバイオマス・風力・小水力など電源の多様化が進展し、自治体主導に加え民間主導の収益型案件も発生する見通しです。

一方、経済産業省は送電網への蓄電池接続申込時の保証金を4月から現行5%の2倍の10%に引き上げ、用地の登記簿提出も義務化する方針を示しました。データセンター案件と同様、実現性の低い「空押さえ」を防止し、市場の健全化を図る狙いです。

マイクログリッド市場810億円への成長軌道

矢野経済研究所の調査は、マイクログリッド構築市場の着実な成長を予測しています。

市場規模の推移

調査対象

  • 設備・システムの調査・設計、構築費用

市場規模予測

  • 2025年度までの累計事業費:551億円
  • 2030年度までの累計事業費:735億円
  • 2040年度までの累計事業費:810億円

成長率

  • 2025年度から2030年度:約33%増(5年で184億円増)
  • 2030年度から2040年度:約10%増(10年で75億円増)

この成長予測は、マイクログリッドが一時的なブームではなく、持続的に拡大する市場であることを示しています。

マイクログリッドとは

定義

  • 特定の地域や施設内において、発電・蓄電設備や自営線など独立した電力網を持つ
  • 非常時には上位系統からの電力供給を遮断する機能を備える
  • 自立して電力を供給することが可能な系統(グリッド)と電力設備・システムの総称

分類

  • 自営線マイクログリッド:電線を事業者が所有
  • 地域マイクログリッド:既存の配電線を活用

この定義が示すように、マイクログリッドはエネルギーの地産地消とレジリエンスを両立する仕組みです。

「非常用電源」から「平常時脱炭素」への位置づけ変化

マイクログリッド市場で最も重要な変化は、その位置づけの転換です。

現在の主流:小規模・防災重視

運転中の自営線マイクログリッド

  • 太陽光発電導入容量が500kW未満の比較的小規模な事例が7割程度を占める
  • 特定の施設やエリアに対する防災・レジリエンス(災害からの復旧・復興能力)強化を
    主目的とした導入が大半

地域マイクログリッド

  • 主に資源エネルギー庁補助事業によって導入が進む
  • 同様に導入容量500kW未満の発電設備を有する例が7割以上

この段階では、マイクログリッドは「いざという時のバックアップ電源」という性格が強いものでした。

今後の方向性:大型化・脱炭素重視

構築中および計画段階の案件

  • 脱炭素先行地域づくり事業や重点対策加速化事業を活用した大型プロジェクトが増加傾向
  • 太陽光発電に加え、バイオマス発電、風力発電、小水力発電などを組み合わせた、
    電源の多様化が進んでいる

卒FIT電源の活用

  • マイクログリッドは、既存の再生可能エネルギー電源(卒FIT電源等)の活用先として
    検討されている
  • 2019年以降、FIT買取期間(10年または20年)が順次終了する太陽光発電設備が増加
  • これらの卒FIT電源は、売電単価が大幅に下がるため、新たな活用先が必要

位置づけの転換

  • 単なる非常用電源から、平常時の電力消費の脱炭素化をより大規模に推進するための
    電力設備・システムという位置づけが強くなりつつある

この変化は、マイクログリッドが「いざという時」から「日常的」な脱炭素インフラへと進化していることを意味します。

今後の成長ドライバー

自治体主導の継続

  • 経済産業省や環境省の補助金事業によって構築が行われてきた
  • 今後も「脱炭素と地域レジリエンスの強化」を主目的とする自治体の主導によって、
    安定的に拡大する見込み

民間主導案件の発生

  • これまでの自治体主導の案件に加えて
  • 系統用蓄電池によって収益性を確保する民間主導のマイクログリッド案件が発生する見通し

この二つの成長ドライバーが、2040年度810億円市場への拡大を支える構造となっています。

蓄電池接続ルールの厳格化──「空押さえ」問題への対処

マイクログリッド拡大の鍵となる蓄電池について、経済産業省は接続ルールを厳格化します。

保証金の2倍化と用地証明の義務化

現行ルール

  • 蓄電池の事業者は送配電会社への契約申込時に保証金を支払う
  • 蓄電池事業者の都合で早期に契約を取りやめる場合は没収される
  • 保証金は概算した工事費用のうち5%分

4月からの新ルール

  • 保証金を10%に引き上げ(2倍)
  • 蓄電池用地の登記簿などの提出も新たに求める
  • 実現性の高い計画から接続されるようにする

実施主体

  • 経産省の認可法人である電力広域的運営推進機関がルールを見直し

「空押さえ」問題の背景

蓄電池需要の急増

  • 再生エネは天候や時間によって発電量が変動するため、
    調整弁として電気をためる蓄電池が必要になる
  • 蓄電池の接続申請が増えており、送電網の増強などの工事が追いついていない

「空押さえ」の構造

  • 事業の実現性が低いにもかかわらず接続の権利を得る
  • 本来接続できるはずの案件が待たされるという非効率が発生

データセンター問題との類似性

  • 東電PG岡本副社長が指摘したデータセンター案件の「空押さえ」と構造が酷似
  • 実現性の低い案件が接続枠を押さえることで、社会的な無駄が発生

厳格化の効果

「本気度」のフィルタリング

  • 保証金2倍化:投機的な申請のコストを引き上げる
  • 登記簿提出義務化:用地確保を済ませた案件のみが申請可能

市場の健全化

  • 実現性の高い案件が優先的に接続される環境
  • 送電網増強投資の無駄を削減
  • 真剣に事業を進める事業者が報われる構造

この厳格化は、短期的には申請ハードルが上がりますが、長期的には市場の健全な発展に寄与します。

卒FIT電源の「第二の人生」としてのマイクログリッド

マイクログリッドが「平常時脱炭素」の位置づけを強める背景には、卒FIT電源の大量発生があります。

卒FIT電源の課題

FIT買取期間の終了

  • 住宅用太陽光:10年
  • 事業用太陽光:20年
  • 2019年以降、順次終了する設備が増加

売電単価の大幅低下

  • FIT期間中:20~40円/kWh
  • 卒FIT後:8~10円/kWh程度
  • 売電収入が大幅に減少

事業者の悩み

  • 設備はまだ使えるのに、経済性が悪化
  • 新たな活用先が必要

マイクログリッドという解決策

地域内での有効活用

  • 卒FIT電源をマイクログリッドに組み込む
  • 地域内で発電した電力を地域内で消費
  • 既存インフラを活かしたエネルギー地産地消

平常時の脱炭素化

  • 非常時のバックアップだけでなく
  • 日常的に再エネ電力を地域に供給
  • 地域全体の脱炭素化に貢献

事業者のメリット

  • 卒FIT後も設備を有効活用
  • 地域貢献という新たな価値創出
  • 場合によっては売電収入の維持・向上

この「卒FIT電源→マイクログリッド」という流れは、既存資産を活かした持続可能なビジネスモデルを提供します。

電源多様化の進展

複合型の増加

  • 太陽光だけでなく、バイオマス発電、風力発電、小水力発電などを組み合わせ
  • 電源の多様化が進む

エネルギーセキュリティの向上

  • 単一電源依存のリスク回避
  • 複数電源によるエネルギーポートフォリオ
  • 天候や時間帯による変動を相互補完

地域資源の活用

  • 太陽光:屋根、遊休地
  • バイオマス:林業残材、農業残渣
  • 小水力:河川、農業用水
  • 地域の特性に応じた最適な電源構成

この電源多様化は、マイクログリッドの安定性と経済性を向上させます。

EPC事業者としての4つの戦略的対応

マイクログリッド市場の拡大と蓄電池接続ルールの厳格化は、EPC事業者に新たな事業機会と対応課題を提示します。

01

卒FIT電源を活用したマイクログリッド提案の強化

卒FIT電源の活用提案は、既存顧客との関係維持と新規ビジネスの両立を可能にします。

卒FIT電源の活用ニーズ

  • 2019年以降、順次終了する太陽光発電設備が増加
  • 売電単価が大幅に下がり、活用先が課題
  • マイクログリッドへの組み込みが有力な選択肢

EPC事業者の提案内容

  • 既存の太陽光発電所を地域マイクログリッドに組み込む提案
  • 自営線マイクログリッドとして自家消費・地域供給に転換する提案
  • 卒FIT電源所有者への能動的なアプローチ

地域連携

  • 自治体、地域電力会社との協業
  • 複数の卒FIT電源をまとめてマイクログリッド化
  • 地域全体のエネルギー自給率向上に貢献
02

電源多様化型マイクログリッドの設計対応

電源多様化対応は、EPC事業者の付加価値を大きく高める要素となります。

今後の大型プロジェクトの特徴

  • 太陽光だけでなくバイオマス・風力・小水力など複数電源を組み合わせ
  • 脱炭素先行地域づくり事業などの大型補助金を活用
  • 電源多様化が標準仕様に

EPC事業者の対応

  • 太陽光専業から総合再エネコーディネーターへ
  • 他の再エネ電源事業者との協業体制構築
  • トータルコーディネートできる提案力

地域特性の活用

  • 太陽光:ほぼ全国で可能
  • バイオマス:林業地域(林業残材)、農業地域(農業残渣)
  • 小水力:河川、農業用水のある地域
  • 風力:沿岸部、高地

差別化要素

  • 単一電源ではなく、地域に最適な電源構成を提案できる
  • 補助金申請から設計・施工・運用まで一貫対応
  • 地域のエネルギー自給と脱炭素を同時実現
03

蓄電池接続ルール厳格化への早期対応

早期対応により、接続枠確保の確実性を高めることができます。

4月からの新ルール

  • 保証金:5%→10%に引き上げ(2倍)
  • 用地の登記簿提出も義務化

EPC事業者への影響

  • 接続申込前に用地の権利関係を明確にする必要
  • 登記簿を準備できる体制が必須
  • 早期の用地確保と登記手続きの完了が競争優位性

対応すべきこと

  • 案件の初期段階から用地確保を最優先
  • 登記簿取得のプロセスを標準業務に組み込む
  • 保証金10%を前提とした資金計画

逆説的なメリット

  • この準備ができている事業者は接続枠を優先的に確保
  • 投機的な競合が減少し、真剣な事業者同士の競争に
  • 市場の健全化により長期的な事業環境が改善
04

民間主導の収益型マイクログリッド案件への参入検討

民間主導案件への参入は、マイクログリッド市場の成長果実を取り込む機会となります。

新たな事業機会

  • 調査では、系統用蓄電池によって収益性を確保する民間主導のマイクログリッド案件が
    発生する見通し
  • これまでの自治体主導案件に加えた新市場

収益モデル

  • 蓄電池による充放電ビジネス
  • アービトラージ(電力価格差を利用した売買)
  • 需給調整市場への参加
  • 系統用蓄電池として収益を確保

EPC事業者の役割

  • 太陽光発電+蓄電池のパッケージ提案
  • 運用段階での収益モデル設計まで含めた提案
  • 民間事業者(不動産、エネルギー商社等)との協業

必要な知見

  • 電力市場の仕組み理解
  • 蓄電池の充放電最適化
  • 収益シミュレーション能力
  • 運用パートナーとの連携

マイクログリッド市場は、2040年度までに810億円規模へと成長する見通しです。

その成長ドライバーは、卒FIT電源の活用ニーズと、「非常用電源」から「平常時脱炭素」への位置づけ変化にあります。今後は脱炭素先行地域づくり事業などを活用した大型プロジェクトが増加し、太陽光に加えバイオマス・風力・小水力など電源の多様化が進展します。

一方、蓄電池接続ルールの厳格化(保証金2倍化、登記簿提出義務化)は、データセンター案件と同様の「空押さえ」問題への対処であり、市場の健全化を促すと同時に、EPC事業者に早期の用地確保と確実な案件実行を求めています。

自治体主導に加え民間主導の収益型案件も発生する見通しの中、マイクログリッドは太陽光発電ビジネスの新たなフロンティアとなります。