みなさん、こんにちは!

今日は、高市政権が国策として推進する「ペロブスカイト太陽電池」産業育成の課題と、事実上その担い手となる積水化学工業が直面する構造的ジレンマについて共有します。

経産省は2024年11月に「次世代型太陽電池戦略」を発表し、ペロブスカイト太陽電池について2030年までに1GW、2040年には20GW(原発20基分)の導入目標を掲げました。フィルム型ペロブスカイト太陽電池の事実上の単独担い手となる積水化学工業は、総額3,145億円(うち半額が国補助)を投じて1GW体制を目指します。

しかし、日本は2000年頃にシリコン太陽電池で世界シェア50%を占めていたにもかかわらず、現在1%未満まで凋落した歴史があります。今回の国策は「規模」と「スピード」での失敗を繰り返さないと謳いますが、既存大企業が単独で巨大リスクを担う構造的限界や、2030年以降の加速フェーズでの課題は残されたままです。

EPC事業者として、この国策の行方を注視しつつ、技術成熟度を冷静に見極め、過度な期待でも過度な悲観でもない、バランスの取れた情報提供を続けることが重要です。

シリコン太陽電池の「失敗の本質」──日本はなぜ敗北したのか

経産省の「次世代型太陽電池戦略」レポートは、冒頭で「太陽電池産業の振り返り」として、日本の失敗を率直に総括しています。

日本の凋落の軌跡

栄光の時代

  • 1973年のオイルショックを契機にサンシャイン計画を開始
  • 技術開発を進め、2000年頃には世界シェアの50%を占めるに至った

凋落の始まり

  • 2005年以降、中国等の海外勢に押される
  • 日・米・独勢は一斉にシェアを落とす
  • 日本のシェアは直近1%未満となっている

経産省が分析する失敗の要因

総括

  • 総じて、急激に事業環境が変化をする中で、官民ともに、需要創出や投資の面で、
    必ずしも十分な『規模』と『スピード』で対応ができていなかった

民間側の問題

  1. 急拡大した世界市場への対応が遅れ、生産体制の整備に向けた投資の規模・スピードが不十分
  2. 国内での生産基盤が不十分な中、海外での製造委託を進め、徐々に優位性を失った
  3. 原材料であるシリコンの安定調達ができないというサプライチェーンの脆弱性

官側の問題

  1. 市場拡大期における需要創出において、
    民間の投資の予見性を確保するような政策の継続性や、支援の規模が不十分
  2. 世界市場や競争環境を念頭に置いた、生産体制構築やサプライチェーンの強靱化、
    価格以外の要素の評価・反映など、総合的な政策対応が不十分

この分析で特に注目すべきは、原材料シリコンの安定調達問題です。シリコンは中国が9割以上のシェアを持ち、これが中国の太陽電池パネル覇権の礎となりました。

今回の国策は、この反省に立って設計されています。

ペロブスカイト太陽電池での「リベンジ」

材料面での優位性

  • 材料はヨウ素
  • チリが世界シェアの65%、日本はそれに次ぐ25%程度のシェアを有している
  • サプライチェーン上の優位性がある

「規模」と「スピード」の決意

  • レポートには「官民連携し、世界をリードする『規模』と『スピード』で、
    時間軸の中で目標を定めながら、量産技術の確立・生産体制整備・需要創出が三位一体で
    行われる」との強い決意が示されている

導入目標

  • 2030年までに1GW
  • 2040年には20GW(原発20基分)

しかし、この目標設定は本当に「世界をリードするスピード」なのでしょうか。

積水化学工業が抱える「国策の重圧」

フィルム型ペロブスカイト太陽電池については、事実上、積水化学工業が民のほぼ単独の担い手として認識されています。

3,145億円という巨額投資

投資計画

  • 2024年12月、シャープの堺工場を取得
  • 総額3,145億円を投資(うち国のGXサプライチェーン構築支援事業で半額1,572.5億円の補助)
  • 第1生産ライン(100MW):470億円(既に建設開始)
  • 第2生産ライン(100MW):430億円(2026年度中に建設開始)
  • 第3生産ライン:1,800億円

積水化学工業の規模

  • 2025年3月期の売上高:1兆2,977億円
  • 経常利益:1,109億円
  • 確かに大企業ではあるが巨大企業とは言えない「規模」

投資負担

  • 自己負担1,572.5億円という巨額の投資
  • 売上高の約12%、経常利益の約1.4倍に相当

収益化までの長い道のり

事業説明会での見通し

  • 2025年3月期:10数億円の赤字
  • 2028年に100MW工場がフル稼働して初めて黒字化
  • 2030年、1GWになって量産効果・コストダウンが加味されてやっと利益率は10%程度

2030年の想定

  • 売上高予想:1,500億円から2,000億円
  • 利益貢献:150億円から200億円

条件

  • 「ただ、それは全てがうまく運んで、の話になる」(記事)
  • 投資回収は更に先
  • 2040年の20GWまでには更なる設備投資総額が必要

2040年の市場規模

積水化学工業自身の予測

  • 2040年度、20GWの想定で市場規模3兆6,000億円

この意味

  • 現在の全売上(1兆2,977億円)の約3倍の単独事業を持つことになる
  • セキスイハイムで有名な「住宅事業」など、様々な事業群から生み出される売上の3倍近い

記事の指摘

  • 確かに悪い話ではないようにも思える。しかし、もし仮に筆者が積水化学工業の経営者であるとしたら、それは光栄ではあっても一方で憂鬱をも抱える経営判断事項になるに違いない。

コングロマリット企業のジレンマ──「失われた30年」の本質

記事が指摘する重要な論点は、既存大企業(コングロマリット)が単独で巨大リスクを担う構造的問題です。

積水化学工業のビジネスモデル

事業構成(2025年3月期)

  • 住宅事業:売上高5,240億円、営業利益314億円
  • 環境事業:2,404億円、229億円
  • 高機能メディカル事業:4,473億円、612億円
  • メディカル(育成事業):991億円、127億円

企業文化

  • 統合報告書を読むと、コングロマリットではあるけれどバラバラではない
  • 技術プラットフォームをコアに、社会課題を「先取り」し、
    技術シーズを「加工」し、「変革」に誘う
  • 考え抜かれたビジネスモデルを持つ企業

ペロブスカイト太陽電池の位置づけ

  • フィルム成形や塗工・封止技術から導かれた「事業の芽の一つ」に過ぎない
  • 他にも微生物触媒を利用したバイオファイナリーなど、複数の注力事業がある

投資家とのミスマッチ

経営者が本来訴求したい評価

  • 複数事業のバランスと技術プラットフォームを総合的に評価
  • 長い目での安定的な成長や配当を重視する投資家(バリュー投資家やGARP投資家)

国策により集まった投資家

  • 2024年9月のシャープ堺工場取得報道以降、株価が高騰
  • 個人投資家が激増
  • 国策であるペロブスカイト太陽電池の本命銘柄として常に注視
  • 成長性を重んじ、リスクを取る投資家(グロース投資家)

記事の指摘

  • 当たり前の話にはなるが、もし筆者が経営者であるなら、投資家にはそうした全体像や文化、ビジネスモデル自体を総合的に語り、評価してもらいたい、と思うだろう
  • そのジレンマは、憂鬱は、十分に理解できるものだ

「失われた30年」の本質的要因

記事の核心的指摘

  • この間、日本の研究者が生み出した技術の多くが、『規模』と『スピード』の問題で、多くは彼の国にある意味奪われていった。それは、結局、そうした技術を育んだ母胎が、コングロマリットであった、という点にある。

構造的問題

  • 大胆な投資のためには、そのリスクに賭けられる投資家や事業家が求められる
  • 残念ながら既存大企業の文化はそうしたリスクを許容するような文化にはならない

必要な視点

  • 過去の反省に立って物事を進めるには、いかにその事業をその母胎から切り離すのか、
    という視点が求められる筈だ

積水化学工業の対応

  • 子会社を立ち上げ、この事業を進めつつある
  • しかし、2030年以降の加速フェーズで「どんなカタチでこの事業を切り離すのか、或いは切り離さないとしてもリスクを許容できる投資家を呼び込めるのか、協業者を探し出せるのか、そこが大きな課題になる」

本当に「規模」と「スピード」で勝てるのか

記事が最も鋭く問いかけるのは、2030年までの「スピード」は本当にそれで勝てるのかという点です。

2030年までのフェーズ

目標

  • 2030年までに1GW

実態

  • 2028年に100MW工場がフル稼働して初めて黒字化
  • 本当にそれで勝てるのか、また同じ轍を踏まないか(記事)

評価

  • もちろん、リスクを考えて、そこまでに見極めるという話しではあると思うが、
    技術の成熟度、コスト競争力、耐久性などを実証する期間

2030年以降の加速フェーズ

課題

  • 2030年から2040年の10年間で1GWから20GWへと20倍の拡大
  • もし、目論見通りの進捗が見込めるのであれば、
    そこからの10年は加速度をつけた飛躍が求められる

構造的問題

  • その際、それを担う器、そこにも工夫や知恵がいる、という点だ
  • そこは民に任せる、というのではなく、官サイドでも考えるべき課題がそこにはある

過去の教訓

  • 奉加帳方式のファイナンスや、誰が本当の意味で決定権を持つのか、組織論のない組織・それぞれの会社の同じ事業部門が寄せ集まっただけの組織、その限界もまた我々は学んできたのではないか

新しい芽と政策提言

新NISAを活用した若年層投資家

  • 2024年以降激増した個人投資家、その多くは投機的な個人ではあるだろうが、
    そこに新NISAを利用した若年層の投資家がいるのではないか、という予感だ
  • 彼らは2040年と言わず2050年までを視野にペロブスカイト太陽電池が日本を支える事業となり、サステナブルな未来のエネルギーになることを応援できる投資家になりうる

本当に訴えるべき政治メッセージ

  • 『国も本気です。ただ、新NISAを活用し、国が支援する事業に、あなたも投資してください、一緒に日本を再生しましょう』ではないか、と思う。消費税減税以上に。

この提言は、国策推進における国民参加型の新しいファイナンスモデルを示唆しています。

EPC事業者としての3つの対応

ペロブスカイト太陽電池の国策推進は、EPC事業者にとって新たな技術選択肢と市場機会をもたらす一方、慎重な見極めが必要な局面でもあります。

01

技術動向の継続的モニタリングと冷静な情報提供

技術動向の冷静なモニタリングは、EPC事業者の専門性と信頼性を示す重要な活動です。

2030年までのフェーズの意味

  • 技術の成熟度・コスト競争力・耐久性などが実証される期間
  • 2028年に100MW工場がフル稼働して初めて黒字化という現実

EPC事業者の役割

  • 積水化学工業の生産ライン立ち上げ状況を継続的にモニタリング
  • 実証データ、性能データ、コストデータの収集
  • 顧客に対して「現時点での技術成熟度」を正確に伝える

情報提供の姿勢

  • 国策だから必ず成功する、という楽観論は避ける
  • シリコン太陽電池での失敗の歴史も踏まえた冷静な分析
  • 過度な期待でも過度な悲観でもない、バランスの取れた情報提供

信頼構築

  • 正確な情報提供により、顧客との長期的な信頼関係を構築
  • 技術選択における専門家としての地位確立
02

軽量・柔軟性を活かした新規市場の開拓準備

新規市場の開拓準備は、2028年以降の実用化加速期に備えた戦略的投資となります。

ペロブスカイト太陽電池の特徴

  • フィルム型の軽量性と柔軟性
  • 「曲げられる」という特徴
  • 壁面などこれまでは使えなかった場所での使用が可能
  • シリコン型パネルの重量に耐えられなかった屋根にも設置可能

新規市場の可能性

  • 都市部の商業施設や工場での自家消費型案件
  • 工場屋根再生工法(ペラペラ太陽光の記事で紹介された屋根強度不足の工場・倉庫)との
    組み合わせ
  • 壁面設置による発電面積の拡大
  • ビルの外壁一体型太陽光発電

タイミング

  • 2028年の黒字化以降、実用化が加速するタイミング
  • この時期に合わせて提案体制を整える

準備すべきこと

  • 軽量・柔軟性を活かした設置方法の研究
  • 建築基準法や消防法などの法規制の確認
  • 施工技術の習得
  • 新規市場への営業体制の構築

競争優位性

  • 早期に新規市場への提案ノウハウを蓄積
  • ペロブスカイト太陽電池の特徴を最大限活かした差別化提案
03

政策の継続性リスクを前提とした事業計画

政策の継続性リスクを前提とすることは、健全な事業計画の基本です。

過去の失敗要因

  • 経産省レポートが指摘:
    「民間の投資の予見性を確保するような政策の継続性や、支援の規模が不十分であった」

現在の状況

  • 国が強い決意を示している
  • 半額補助という大規模支援
  • 高市政権が国策として推進

しかしリスクは存在

  • 政権交代や財政状況の変化による政策支援縮小の可能性
  • 2030年以降の加速フェーズでの支援継続の不確実性
  • 世界市場での競争激化によるコスト競争力の問題

EPC事業者の対応

  • ペロブスカイト太陽電池への過度な依存を避ける
  • 既存のシリコン系技術との併用
  • ポートフォリオ戦略の維持
  • 複数の技術選択肢を顧客に提示

事業計画の考え方

  • ペロブスカイト太陽電池を「有望な新技術の一つ」として位置づけ
  • 2030年までは実証・検証フェーズと捉える
  • 2030年以降の加速フェーズで本格参入を判断
  • 政策の継続性を前提とせず、市場原理での成立可能性を重視

リスク管理

  • 顧客に対して政策リスクを説明
  • 政策変更があっても対応できる柔軟な提案
  • 長期的な事業継続性を重視した戦略

国策としてのペロブスカイト太陽電池産業育成は、2000年代のシリコン太陽電池での失敗を繰り返さないための「規模とスピード」を謳っています。

しかし、日本は2000年頃に世界シェア50%を占めていたにもかかわらず、現在1%未満まで凋落した歴史があります。その要因は「規模」と「スピード」での対応不足、サプライチェーンの脆弱性、政策の継続性・支援規模の不足でした。

今回の国策では、ヨウ素という材料面での優位性や半額補助という支援がありますが、既存大企業が単独で巨大リスクを担う構造的限界や、2030年以降の加速フェーズ(1GWから20GWへの20倍拡大)での組織論・ファイナンス面での課題は残されています。

記事が指摘する「失われた30年」の本質は、コングロマリット企業の文化が大胆な投資を許容しなかった点にあります。積水化学工業は子会社を立ち上げて対応していますが、2030年以降にどう事業を切り離すか、リスクを許容できる投資家を呼び込めるかが大きな課題です。

EPC事業者として、この国策の行方を注視しつつ、技術成熟度を冷静に見極め、過度な期待でも過度な悲観でもない、バランスの取れた情報提供を続けることが重要です。

ペロブスカイト太陽電池を「有望な新技術の一つ」として位置づけ、2030年までは実証・検証フェーズと捉え、政策の継続性を前提とせず市場原理での成立可能性を重視する慎重な姿勢が求められます。