みなさん、こんにちは!
今日は、企業に広がる「Scope3削減」の動きと、その対応策としての再エネ証書活用について共有します。
三菱食品が全国約400拠点で非化石証書による実質再エネ100%化を実現するなど、サプライチェーン全体での脱炭素化が加速しています。
ある大手自動車会社の部品メーカーからは「自動車会社からScope3達成のためCO2削減を求められている」という声も聞かれます。
もはや脱炭素は大企業だけの課題ではなく、サプライヤー企業にとっても重要な経営課題となりつつあります。
この変化が、企業間関係と再エネ市場にどのような影響を与えるのか考察します。
三菱食品が示す大企業の脱炭素戦略
三菱食品は、Carbon EX社と協働し、非化石証書による実質再エネ100%に取り組みます。
これにより、全国約400拠点の事業所で使用する電力を実質的に再エネ化し、2030年に向けたCO2排出量削減とサプライチェーン全体の脱炭素化を推進します。
三菱食品が抱えていた課題は、多くの企業に共通するものです。
- 全国の物流センターにおけるエネルギー使用量の約9割が電力由来
- 全体の約4割を占める賃借拠点では再エネ化が困難
- 直接電力を契約する拠点ではCO2フリープランへの切り替えを完了済み
- しかし2030年の削減目標達成にはさらなる実効的な対策が必要
この状況に対し、コスト効率と信頼性を両立できる再エネ化手法として、非化石証書の活用を決定しました。
非化石証書とは、再生可能エネルギーや原子力などCO₂を排出しない「非化石電源」で発電された電気の環境価値を証書として切り出し、売買できるようにした制度です。
発電設備を持たなくても、この証書を購入することで使用電力を実質的に再エネ化できるため、設備投資や物理的制約がある企業にとって現実的な選択肢となっています。
Scope3とは何か、サプライチェーン全体の排出量管理
企業の温室効果ガス排出量は、以下の3つのスコープに分類されます。
| Scope1(直接排出) | 事業者自らの燃料の燃焼や工業プロセスに伴う排出 |
| Scope2(エネルギー起源間接排出) | 他社から供給された電気・熱・蒸気などのエネルギー使用に伴う排出 |
| Scope3(その他の間接排出) | 事業者の活動に関連するその他の排出(Scope1、2以外) |
Scope3は、サプライチェーン全体にわたる広範な排出を対象とし、15のカテゴリに分類されます。
カテゴリ
- 購入した製品・サービス
- 資本財
- Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動
- 輸送、配送(上流)
- 事業活動から出る廃棄物
- 出張
- 雇用者の通勤
- リース資産(上流)
- 輸送、配送(下流)
- 販売した製品の加工
- 販売した製品の使用
- 販売した製品の廃棄
- リース資産(下流)
- フランチャイズ
- 投資
多くの企業にとって、Scope3が全体の排出量の大半を占めることが多く、特にカテゴリ1「購入した製品・サービス」の割合が高い傾向があります。
「取引先の環境目標達成を支援する」という新しい関係性
多くの大企業がSBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づく目標)に基づき目標を設定し、自社のScope1・2だけでなくScope3削減に取り組んでいます。
SBTとは、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことです。
企業は1.5℃目標や2℃目標に向けて、科学的根拠に基づいた削減計画を策定し、実行することが求められます。
ここで重要なのは、Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)を削減するには、サプライヤー企業のCO2排出を減らす必要があるという構造です。
つまり、
- 大手企業がSBT目標を設定
- Scope3削減のためサプライヤーにCO2削減への協力を依頼
- サプライヤーはScope2(使用電力)の削減に取り組む
- サプライヤーが再エネ証書や自社発電で対応
- その結果、大手企業のScope3カテゴリ1が削減される
この流れにより、サプライチェーン全体で脱炭素化に取り組む関係性が生まれつつあります。
大手自動車会社の部品メーカーからは「自動車会社からScope3達成のためCO2削減を求められている」という声が聞かれます。
これは決して例外ではなく、全国のサプライチェーンで広がっている動きです。
制度的な後押しも――EUの規制強化
この動きは単なる環境配慮の要請ではなく、制度的な後押しも背景にあります。
EUのバッテリー規則
- 製品のカーボンフットプリント開示を義務化
- ライフサイクル全体のCO2排出量を明示
- 排出量の少ない製品が市場で選ばれやすくなる仕組み
CBAM(炭素国境調整措置)
- EU域内に輸入される製品に炭素コストを課す制度
- 製品製造時のCO2排出量に応じて課金
- 高排出製品は価格競争力を失う
これらの規制により、製品のカーボンフットプリントが市場競争力に直結する時代が到来しています。
EUに製品を輸出する日本企業は、これらの規制に対応する必要があります。
そして、その対応はサプライヤー企業にも連鎖します。
三菱食品が非化石証書で全国400拠点を実質再エネ100%化したのも、自社の削減目標達成だけでなく、取引先からのScope3削減への協力要請や将来的な規制対応を見据えた動きと考えられます。
非化石証書という現実的な解決策
サプライヤー企業にとって、CO2削減への対応は容易ではありません。
主な制約
- 太陽光発電設備の初期投資が必要
- 賃借拠点では物理的に設置できない
- 屋根の構造や面積の問題
- 投資回収期間の長さ
三菱食品が「全体の約4割を占める賃借拠点では再エネ化が困難」という課題を抱えていたように、多くの企業が同じ状況にあります。
非化石証書は、こうした制約を持つ企業にとって現実的な解決策です。
主なメリット
- 設備投資不要:発電設備を持たなくても環境価値を購入できる
- 短期導入可能:設備投資に比べて迅速に対応できる
- 賃借拠点でも対応可:物理的制約を受けない
- コスト効率:初期投資が不要で予算計画が立てやすい
サプライヤーが非化石証書を調達すれば、
| サプライヤー側 | Scope2(使用電力)が削減される |
| 発注企業側 | Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)が削減される |
この仕組みにより、サプライチェーン全体でのCO2削減が実現します。
環境証書は「補助手段」という認識の重要性
ただし、環境証書の活用には注意が必要です。
SBTの原則では、他者のクレジット(排出権)取得による削減(カーボンオフセット)は、企業がSBTを達成するための削減に含まれないとされています。
環境証書は、
- GHG排出量そのものではなく、使用電力に対して適用される
- 「削減」ではなく「補償」「相殺」として扱われる
- 短期的な対応手段として有効だが、本質的な削減ではない
三菱食品は重要な認識を示しています。
「非化石証書の導入を再エネ創出への投資と位置付け、今後は省エネ・創エネを両輪とした持続的な削減体制を構築する」
これは、環境証書を補助的手段として活用しつつ、本質的な削減に向けた取り組みを進める段階的アプローチです。
本質的な環境証書だけでは不十分です。
持続可能な脱炭素化には、以下の本質的な取り組みが不可欠です。
エネルギー効率の向上(Scope1)
- 高効率設備への更新
- 製造プロセスの最適化
- エネルギー管理システムの導入
- 廃熱の回収・利用
再生可能エネルギーの自社導入(Scope2)
- 自社屋根への太陽光発電設置
- オンサイトPPA(電力購入契約)の活用
- 自社での風力発電・小水力発電の検討
- 蓄電池との組み合わせによる電力の自給率向上
サーキュラーエコノミーへの転換(Scope3)
- 製品のライフサイクル全体を通じた資源利用の最小化
- 使用済み製品や副産物の回収・再利用システム構築
- 製品デザイン段階から再利用を考慮した素材選定
- 分解可能な設計の採用
より効果的で本質的なアプローチとしては、製品やビジネスモデルを循環型を前提としたものに変革していくことです。
再エネ事業者にとっての新市場機会
Scope3削減圧力の広がりは、再エネ事業者にとって新しい事業機会を示唆しています。
サプライヤー企業への太陽光発電提案
大手企業からCO2削減を求められている部品メーカーや中小企業に対し
- 自社屋根への太陽光設置提案
- オンサイトPPAモデルの提案
- 初期投資ゼロでの導入支援
環境証書に頼らない実質的なScope2削減を支援できます。
「Scope3削減支援」という新しい営業切り口
効果的な問いかけ
- 「取引先からCO₂削減への協力を求められていませんか?」
- 「Scope3対応について検討されていますか?」
- 「サプライチェーンの脱炭素化に向けた準備について、お困りのことはありませんか?」
これらの問いかけは、潜在ニーズを顕在化させる有効なアプローチです。
環境証書と太陽光発電の組み合わせ提案
段階的プランの提示
| 第1段階 | 非化石証書で即座に対応(0〜1年) |
| 第2段階 | 省エネ設備導入で削減効果を高める(1〜3年) |
| 第3段階 | 自社太陽光発電設備を導入(3〜5年) |
短期的には非化石証書で取引先からの協力要請に対応しつつ、中長期的に自社発電設備を導入する道筋を示すことで、本質的な削減へ移行できます。
発注企業との連携可能性
大手自動車会社や大手メーカーが「サプライヤーのCO₂削減を支援したい」というニーズを持つ場合
- 発注企業経由でサプライヤーへの一括提案
- サプライチェーン全体での脱炭素化支援
- グループ全体での再エネ導入支援
新しいビジネスモデルの可能性が広がります。
サプライチェーン排出量の算定がもたらすメリット
Scope3を含むサプライチェーン排出量を算出することで、企業は以下のメリットを得られます。
削減対象の特定
サプライチェーン全体の総排出量や排出源ごとの排出割合が把握できるようになり、注力すべき削減対象が明らかになります。
自社の排出の特徴を分析することで、長期的な環境戦略策定に役立てることができます。
取引企業との連携深化
サプライチェーン排出量の算定には、取引先との情報交換や連携が不可欠です。
取引先に排出量の確認や削減努力の要請をするだけでなく、環境負荷を低減するための新たな取り組みを一緒に考案・実施する機会につながります。
社会的信頼性の向上
統合報告書や企業ホームページなどにサプライチェーン排出量を掲載し、自社サプライチェーンの環境貢献度や現状を定量的に示すことができれば、投資家などから環境経営に対する適切な評価を受けやすくなります。
ESG投資が広がる中、サプライチェーン排出量の開示対応でESG評価を高めておくことは、資金調達の可能性を広げる重要な取り組みです。
サプライチェーン全体で取り組む時代へ
Scope3削減の動きは、太陽光発電市場に新しい需要を生み出しています。
大手企業がサプライヤーに対してCO2削減への協力を求める流れは、これまで太陽光発電を検討していなかった中小企業にとって「重要な経営課題」となりつつあります。
「自動車会社からScope3達成のためCO2削減を求められている」という声は、全国のサプライチェーンで広がっている動きです。
三菱食品のように非化石証書で対応する企業もありますが、本質的な削減には自社での再エネ導入が不可欠です。
| 短期 | 環境証書で迅速に協力要請に対応 |
| 長期 | 自社再エネ設備で本質的な削減を実現 |
この段階的アプローチが、現実的で持続可能な道筋となります。
再エネ事業者にとって、「Scope3削減支援」という切り口でサプライヤー企業にアプローチし、短期の環境証書と中長期の自社発電を組み合わせた段階的プランを提案することで、新しい市場を開拓できる可能性があります。
カーボンニュートラルを実現するためには、自社だけでなく関係する企業や業界他社など従来より広い範囲で協力し合い、理解を深めて取り組んでいくことがポイントになるでしょう。
SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」で掲げられているように、気候変動への対応という地球全体の課題を解決するためには、サプライチェーンを含め、さまざまなステークホルダーと手を取り合って行動することが不可欠です。
