みなさん、こんにちは!
今日は、ペロブスカイト太陽電池の実用化が加速する中で広がる「新たな適地」と、高効率化・高耐久化を実現する材料開発の動向について共有します。
積水ソーラーフィルムの上脇太社長が掲げる「街そのものを発電所にしたい」というビジョンは、ペロブスカイト太陽電池の登場によって現実味を帯びてきました。東京都は2040年までにペロブスカイト2GW、国は20~40GWの導入目標を設定し、積水化学工業は2027年度100MW、2030年以降1GW、投資累計3,000億円の計画を進めています。
注目すべきは、壁面・路面・海上という多様な適地の創出です。大林道路が20トンダンプ荷重に耐える「踏める太陽光」を開発し路面への設置を実証、三井住友建設は東京湾や広島県沖で海上浮体式の実証を進めています。
さらに、産総研が開発した添加剤「OA-TFSI」が変換効率向上と耐湿性改善を実現し、耐久性とコストの「実用化ライン」突破への道筋が見えてきました。これまでの太陽光発電が「広大な用地」を前提としていたのに対し、ペロブスカイトは既存の都市空間・インフラ空間をエネルギー生産空間に変える可能性を持っています。
「街を発電所に」──東京都・国・積水化学の野心的目標
ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて、自治体・国・企業が連携して動き始めています。
東京都の取り組み
お台場での実証実験
- 東京国際クルーズターミナルの円柱にペロブスカイト太陽電池を巻き付け
- 人々は気づかずに柱へもたれ、海を眺める
- 頭上で静かに電気が生まれる──都市の風景を変えず発電量を積み上げる
背景と課題
- 2025年4月から新築住宅などを対象に太陽光パネルの設置を義務化
- しかし、既設の建物の屋上は室外機などで埋まり、強度面でも従来型パネルを増やしにくい
導入目標と支援
- 2040年までに2GWの導入目標
- 設置費の補助に加え、実証現場も無償提供
国の戦略
資源エネルギー庁の方針
- シリコン型に代わる次世代太陽電池技術としてペロブスカイトの開発を後押し
- 2040年に20~40GWの導入を目指す
狙い
- 適地制約の解消:
広大な用地でなくとも、ビルの壁や工場の軽量屋根など既設の建築物に貼り付けて発電 - 供給網(サプライチェーン)の再構築:
シリコン型は部材供給で中国依存が強い一方、ペロブスカイトの主要材料のヨウ素は
日本が主産地で、国内供給網を構築しやすい
積水化学工業の量産計画
拠点と生産計画
- 堺市の旧シャープ工場を拠点
- 少量販売を開始し、2027年度100MW、2030年以降1GWへと生産量を拡大
投資規模
- 累計約3,000億円
- 約半分を国の支援で賄う
販売戦略
- まずは屋上・屋根向けに販売
- 東京都の実証でも採用
この官民連携の規模と目標は、ペロブスカイト太陽電池が国策として本格推進されていることを示しています。
壁面・路面・海上──広がる「新適地」
ペロブスカイト太陽電池の特性(薄く・軽く・曲げられる)により、これまで不可能だった場所での発電が現実になりつつあります。
既設建築物の壁面・円柱
特徴
- 薄いフィルムを円柱に巻き付ける(お台場の事例)
- ビルの壁面にも設置可能
- 都市の風景を変えず発電量を積み上げる
メリット
- 広大な用地が不要
- 既設の建築物に後付け可能
- 屋上が室外機で埋まっていても対応可能
「街を発電所に」というビジョンは、都市部における太陽光発電の可能性を根本から変えるものです。
路面──「踏める太陽光」
大林道路の開発
- 16cm角ほどのソーラーセルの上下を強化ガラスで覆う
- ブロックに組み込んで「踏める太陽光」に
- 20トンダンプの荷重に耐える
- ブロックとして埋め込むことで交換や保守もしやすい
最大のメリット
- 路面は既存の土地であり、追加の土地代がかからない
実証実験の課題と改良
- 福島県大熊町での実証実験(2025年3月まで)
- 車両の旋回によって路面がねじられ、ガラスが割れた
- 構造を強化し、ねじれに耐える設計に改良
- 排水設計も見直し
実装計画
- まずは歩道や駐車場など通行量が少ない場所から実装
- 将来は給電して融雪やセンシング装置との機能統合も目指す
この「インフラをエネルギー生産装置に変える」という発想は、既存の土地利用と発電を両立させる画期的なアプローチです。
海上──浮体式太陽光発電
三井住友建設の挑戦
- ため池で培った太陽光パネルの水上設置技術を東京湾の水門内で検証
- 2025~28年度に中国電力などと広島県大崎上島沖で共同実証
技術的課題
- 日本は台風が多く、海上設置の肝は係留設計
- 腐食や漏電対策も重要
- 外海でどう耐えるかが技術開発のポイント
メリット
- 水面冷却で陸上より発電量が増える可能性
将来の活用先
- 港湾の荷さばき場や護岸沿い
- 既存インフラと干渉しにくい水面空間を活用
土地制約の強い日本において、海上という新たな適地は大きなポテンシャルを持ちます。
耐久性とコストの「実用化ライン」突破への道筋
ペロブスカイト太陽電池の実用化における最大の課題は、耐久性とコストでした。
課題①:耐久性
積水化学工業の目標
- 屋外耐久性でまず10年相当の確立を目指す
- 将来は20年レベルへ引き上げ
シリコン型との比較
- シリコン型パネルの寿命:20~30年以上
- ペロブスカイトが20年レベルを達成すれば、実用化の「最低ライン」をクリア
技術的背景
- ペロブスカイト層は食塩(NaCl)などと同様にイオンからなる結晶(イオン結晶)
- 水分や湿気により劣化するという問題
課題②:コスト
現状
- 製造コストはシリコン型の数倍
目標
- 1GW量産時に総コストをシリコン型よりも下げる
積水ソーラーフィルムの上脇社長の見通し
- シリコン型は補強工事費が膨らみやすいが、フィルム型は補強なしで貼れる可能性がある
- いずれはシリコン型に対して工事費込みの総コストで勝負できるようになる
この「工事費込み」という視点が重要です。パネル単体のコストではなく、施工を含めた総コストでの競争力を見据えています。
産総研の添加剤「OA-TFSI」による突破口
開発の背景
- 正孔輸送材料に添加剤を加える手法が注目されている
- 正孔輸送層は単体ではほとんど機能しないが、添加剤導入でペロブスカイト層から
正孔を効率良く取り出せる - しかし、従来の添加剤では時間経過すると添加剤がペロブスカイト層を劣化させて
耐久性が低下
「OA-TFSI」の効果
- イオン液体とも呼ばれる材料
- TFSIと呼ばれる陰イオンが正孔輸送材料と反応し、正孔輸送層の機能を高めることで
正孔を取り出しやすくする - 陽イオンのOAがペロブスカイト材料と反応して、
ペロブスカイト層表面が水をはじくようになる
実現する効果
- 変換効率を向上させる
- 耐湿性を改善する
商業化
- 産業技術総合研究所とIST Solutionsが開発
- 東京化成工業が2026年2月6日から販売開始
- これまで試薬として購入できなかったOA-TFSIを普及させることで、
ペロブスカイト太陽電池の社会実装への貢献が期待できる
この添加剤開発は、耐久性問題の具体的な解決策を示すものです。
廃棄パネルリサイクル──ライフサイクル全体の持続可能性
ペロブスカイト太陽電池の普及を見据えるとき、廃棄という大きな問題も視野に入れる必要があります。
廃棄パネルの急増見込み
予測
- 2030年代前半:年20万~30万トン
- 2040年頃:年40万~50万トンに急増
課題
- 埋め立て処分には限界
- 環境汚染の懸念
- 太陽光の普及を続けるには循環の実装が欠かせない
トクヤマの高付加価値リサイクル
事業化計画
- 2026年度中の事業開始に向け実装を進める
技術の特徴
- 450~500度の低温熱分解で封止材などの樹脂だけを分解
- ガラスやセル、銅を高品質に分離する技術を確立
高付加価値リサイクルの意味
- 単なる廃棄物処理ではなく、再利用可能な素材として分離
- 資源循環の実現
設備
- 北海道南幌町に共同研究で設けた廃棄パネルの低温処理装置
この技術は、太陽光発電のライフサイクル全体の持続可能性を支える重要な要素となります。
EPC事業者としての3つの戦略的対応
ペロブスカイト太陽電池の実用化加速は、EPC事業者に新たな市場機会と技術対応を求めています。
既設建築物への後付け提案の準備
既設建築物への後付け提案は、都市部における太陽光発電の新市場を切り拓きます。
ペロブスカイトの最大の強み
- 既設の建築物に後付けできる点
- 壁面、円柱、軽量屋根など、シリコン型では不可能だった場所に設置可能
ターゲット
- 工場や倉庫:屋根の耐荷重に制約がある建物
- 高層ビル:壁面面積が大きい建物
- 既設の商業施設:屋上が室外機で埋まっている建物
タイミング
- 2027年度100MW量産開始後が本格参入のタイミング
- それまでに提案体制を整備
耐久性・コストの「現実的な見極め」と顧客への正確な情報提供
正確な情報提供は、EPC事業者の専門性と誠実性を示す機会となります。
国策としての推進
- 東京都2GW、国20~40GW、積水化学3,000億円投資
- 大きな期待が寄せられている
しかし現実
- 耐久性:10年→20年という目標は「見通し」段階
- コスト:1GW量産時に競争力という目標も「見通し」
- 添加剤「OA-TFSI」は販売開始したばかり
推奨アプローチ
- 2027年度100MW量産開始後の初期ロットは実績データが限られる
- まずは実証的な小規模導入から始める
- 耐久性データを蓄積しながら徐々に拡大する慎重な戦略
廃棄パネルリサイクルを含めたライフサイクル提案
ライフサイクル提案は、EPC事業者の付加価値を大きく高める要素となります。
廃棄パネルの急増
- 2030年代前半:年20~30万トン
- 2040年頃:年40~50万トン
- リサイクル体制の構築が不可欠
トクヤマの技術
- 低温熱分解で高品質分離
- 2026年度中の事業開始
- 資源循環の実現
企業の脱炭素目標との親和性
- Scope3(サプライチェーン排出)まで含めた評価
- 「リサイクル前提の循環型太陽光発電」という価値提案
差別化要素
- 単なる設置業者ではなく、持続可能性のトータルコーディネーター
- ESG経営を重視する企業への強い訴求力
ペロブスカイト太陽電池は、積水ソーラーフィルムの上脇社長が掲げる「街そのものを発電所にしたい」というビジョンのもと、壁面・路面・海上という多様な新適地を創出しています。
大林道路の「踏める太陽光」は路面という既存の土地を発電インフラに変え、三井住友建設の海上浮体式は港湾の水面空間を活用します。これまでの太陽光発電が「広大な用地」を前提としていたのに対し、ペロブスカイトは既存の都市空間・インフラ空間をエネルギー生産空間に変える可能性を持っています。
耐久性とコストの課題も、産総研の添加剤「OA-TFSI」による変換効率向上と耐湿性改善、積水化学の10年→20年レベルへの耐久性向上、1GW量産時の工事費込み総コスト競争力という道筋により、実用化ラインを突破する見通しが立ちつつあります。
2027年度100MW量産開始は、ペロブスカイト太陽電池が「国策」から「実用」へと移行する重要な転換点となります。
