みなさん、こんにちは!

今日は、太陽光発電所のケーブル盗難対策技術について共有します。

社会問題となっている盗難に対し、複数の企業が革新的な対策技術を実用化しています。東信電気がエッジAIカメラと威嚇装置を組み合わせた「攻めの防犯」システムを大手警備会社に納入し、旭テクノロジーが茨城県庁と共同でドローン警備の実証実験を開始、トリニティーはSIM対応ソーラー防犯カメラを発表しました。

以前の記事で取り上げた通り、保険金額が5年間で20倍に拡大し、保険引受環境が悪化して免責増加・不担保化が進む中、「そもそも盗難を起こさせない」物理的防犯対策の重要性がさらに高まっています。

今回紹介する3つの技術は、それぞれ異なるアプローチで防犯を強化し、無人化・遠隔監視・心理的抑止という多層的な防御を可能にします。

東信電気「Miterus」:「攻めの防犯」という発想転換

東信電気は12月22日、太陽光発電所向け盗難対策システム「Miterus(ミテルス)」が大手警備会社に採用され、茨城県のメガソーラーに設置されたと発表しました。

Miterusの最大の特徴は、カメラ本体にAI処理機能を搭載したエッジAIカメラによる異常検知と、現場で即時に威嚇する「攻めの防犯」です。

威嚇の手段

  • 最大3万lm(ルーメン)の高輝度LEDの点滅
  • 最大音量105dBの大音量サイレンや音声
  • パトランプの自動発報

AIカメラが侵入者や侵入車両を検知すると、これらの威嚇装置が自動的に作動し、侵入者を撃退します。合わせて、動画のクラウド保存や管理者へのメール送信を行います。

この「攻めの防犯」という表現には、重要な発想転換があります。従来の監視カメラは「盗難が起きた後に証拠を記録する」という受動的な防犯でしたが、Miterusは「侵入者を即座に威嚇して撃退する」という能動的な防犯です。

以前の記事で取り上げた通り、ケーブル盗難の保険金額は5年間で20倍に拡大し、保険引受環境が悪化して免責増加・不担保化が進んでいます。「盗難が起きても保険で補償される」という前提が崩れた今、「そもそも盗難を起こさせない」物理的防犯対策が不可欠です。

最大3万lmの高輝度LED、最大105dBの大音量サイレン、パトランプという威嚇手段は、侵入者に「ここは危険だ」と判断させ、犯行を断念させる効果があります。

今回、茨城県内のメガソーラーに設置されたシステムは、顧客が既に運用する警備システム(監視カメラ、クラウド通信)と、Miterusの威嚇機を有線接続で連動するシステムを採用しました。
警備会社の既存システムまたはAIカメラが異常を検知すると、威嚇機のLED投光器とパトランプ、スピーカーが自動作動します。東信電気では、標準モデルの提供に加え、今回のような個別対応のシステムも強化していくとのことです。

この柔軟な連動性は、既設発電所への後付け導入を容易にし、既存投資を活かしつつ防犯を強化できる利点があります。

旭テクノロジー:ドローン警備の「無人化」と「心理的抑止」

旭テクノロジーは12月21日、茨城県庁が進めるDX推進事業の一環として、県内のメガソーラーで「ドローン警備システム実証実験」を11月から開始したと発表しました。

このシステムの革新性は、操縦者不在でも定時巡回が可能という点にあります。

システム構成

  • あらかじめ設定されたルートを自動飛行し撮影するドローン
  • 自動離着陸・自動充電が可能なドローンポート
  • 可視光カメラ + 赤外線サーマルカメラ搭載
  • リアルタイムでの遠隔地への映像伝送

ドローンポートにより自動離着陸・自動充電が可能なため、人手をかけずに定時巡回を継続できます。赤外線サーマルカメラにより、闇夜の侵入者も検知可能です。

注目すべきは、「ドローン警備実施中」などの看板を設置し、物理的な監視だけでなく心理的な犯罪抑止効果も検証する点です。

以前の記事で、ロボット草刈機が警備システムに誤認され通報されたケースがありましたが、ドローン警備は逆に「警備を兼ねた自律飛行」により、O&Mコスト削減と防犯強化を両立させます。

「ドローン警備実施中」という看板は、実際の監視能力に加えて、「常に監視されている」という心理的プレッシャーを与えることで、侵入を思いとどまらせる効果があります。

この実証実験が茨城県庁が進めるDX推進事業の一環として行われている点は重要です。自治体が太陽光発電所の盗難対策を政策的に支援する姿勢を示しています。

検証内容

  • 侵入検知能力と即応性の向上
  • 夜間・悪天候時の安定性
  • コストと実用性の評価

実証期間は11月〜2026年1月の約3カ月間で、同年2月をめどに報告書を取りまとめる予定です。実用化の判断は2026年春以降となりますが、コストと実用性の評価が焦点です。導入コストが高すぎれば普及は困難なため、この実証結果は業界にとって重要な判断材料となります。

トリニティー「TR-02k-Solar」:完全独立型という導入障壁の低減

トリニティーは12月22日、SIM対応ソーラー防犯カメラ「TR-02k-Solar」を発表しました。

このカメラの最大の特徴は、「電気工事不要」「固定回線・無線LAN不要」という完全独立型である点です。

システム構成

  • 太陽光パネルとバッテリーを搭載
  • NTTドコモ回線のSIM内蔵
  • 赤外線照射機能(照射距離最大30m)
  • AI侵入検知(オプション)

太陽光発電所は郊外や山間部に立地するケースが多く、電源や通信回線の確保が課題でした。このカメラは、太陽光パネル+バッテリー、SIM内蔵により、完全独立型の防犯カメラとして機能します。

これは、再エネ発電所だからこそ可能な「自己完結型の防犯システム」です。太陽光を電源とする防犯カメラが、太陽光発電所を守るという、ある意味で理にかなった構成と言えます。

価格設定

  • レンタルプラン:初期費用0円、月額4,840円から(個人)
  • 一括買取:対応
  • リース:対応

レンタルプランで初期費用0円、月額4,840円からという価格設定は、小規模発電所でも導入しやすい水準です。赤外線照射距離最大30m、AI侵入検知オプションという機能も、夜間の盗難対策として有効です。

固定回線やWi-Fiがない場所でも、スマートフォンから現地の映像を遠隔で把握できます。街灯のない場所や夜間の暗い環境でも赤外線照射機能で撮影でき、オプションで敷地内への侵入を検知するとスマートフォンへ通知します。

この「スマホで完結」というユーザビリティは、O&M業務の効率化にも貢献します。現地に行かなくても状況を把握でき、異常時のみ駆けつければよいため、人的コストを削減できます。

保険崩壊時代の必須インフラ

以前の記事で取り上げた通り、ケーブル盗難の保険金額は5年間で20倍に拡大し、保険引受環境が悪化して免責増加・不担保化が進んでいます。

保険引受環境の悪化

  • 免責金額の増加
  • 盗難補償の不担保化
  • 保険料の高騰

「盗難が起きても保険で補償される」という前提が崩れた今、物理的防犯対策は事業継続の必須インフラとなっています。「被害に遭ってから対策する」のでは遅すぎます。

今回紹介した3つの技術は、すべて予防的な防犯強化を可能にします。特に、盗難多発地域では、防犯対策が事業継続の前提条件となります。

EPC事業者としての戦略的機会

盗難対策技術の進化は、EPC事業者にとって新しい提案機会を示唆しています。

01

新設案件での防犯対策の初期組み込み

設計段階から、Miterusのような威嚇装置、ドローン警備システム、SIM対応ソーラー防犯カメラなどを織り込むことで、後付け導入よりも効率的な防犯体制を構築できます。

設計段階での組み込みメリット

  • 配線や設置場所の最適化
  • 初期コストの抑制
  • 一体的な運用設計

特に盗難多発地域では、防犯対策が事業継続の前提条件となるため、顧客への提案において防犯システムを標準装備とすることも検討すべきです。

02

既設案件への防犯強化提案

保険引受環境が悪化し免責増加・不担保化が進む中、既設発電所への防犯システム追加導入需要が高まっています。

既設案件へのアプローチ

  • 保険更新時期に合わせた提案
  • 盗難被害の発生状況に応じたリスク評価
  • 段階的な導入プラン(まずカメラ、次に威嚇装置など)

盗難被害に遭った後では遅いため、予防的に防犯強化を提案することが有効です。

03

警備会社との連携

東信電気のMiterusが大手警備会社に採用されたように、既存の警備システムと連動するソリューションを提案することで、顧客は既存投資を活かしつつ防犯を強化できます。

警備会社連携のメリット

  • 既存警備システムとの統合
  • 24時間監視体制の構築
  • 緊急時の駆けつけサービス
  • 設計・施工から警備運用までのワンストップ提供

警備会社との提携により、設計・施工から警備運用までをワンストップで提供できれば、競合との差別化要因となります。

04

自治体との連携可能性

旭テクノロジーの実証実験が茨城県庁のDX推進事業の一環として行われているように、自治体が太陽光発電所の盗難対策を政策的に支援するケースがあります。

自治体連携の機会

  • DX推進事業への参画
  • 実証実験への協力
  • 補助金・支援制度の活用

同様の支援策がないか、自治体との対話を進める価値があります。特に、県内の太陽光発電所が盗難被害に遭っている実態を示し、政策的支援の必要性を訴えることが重要です。

05

O&Mサービスとしての防犯パッケージ

ドローン警備、防犯カメラ、AI侵入検知を組み合わせたO&Mパッケージを提供することで、防犯を一体化した総合的なサービスを提案できます。

O&Mパッケージの構成例

  • 定期点検 + ドローン警備
  • 遠隔監視 + SIM対応カメラ
  • AI異常検知 + 威嚇装置
  • 緊急対応 + 警備会社連携

こうした総合的なパッケージは、顧客にとって「防犯を含めた安心のO&M」として価値があります。

2026年春が実用化の判断時期

旭テクノロジーのドローン警備実証実験は、2026年2月に報告書が取りまとめられる予定です。

実証実験の焦点

  • コストと実用性の評価
  • 夜間・悪天候時の安定性
  • 侵入検知能力と即応性

この報告書により、ドローン警備のコストと実用性が明確になり、普及の判断材料が揃います。導入コストが高すぎれば普及は困難ですが、実用的なコスト水準であれば、2026年春以降に急速な普及が見込まれます。

EPC事業者として、この実証結果を注視し、実用化が確認され次第、速やかに提案に組み込むことが重要です。

「そもそも盗難を起こさせない」という新時代

太陽光発電所のケーブル盗難問題は、保険金額が5年間で20倍に拡大し、保険引受環境が悪化して免責増加・不担保化が進む「保険崩壊」という深刻な状況にあります。

「盗難が起きても保険で補償される」という前提が崩れた今、「そもそも盗難を起こさせない」物理的防犯対策が、事業継続の必須インフラとなっています。

東信電気のエッジAIカメラ+威嚇装置(攻めの防犯)、旭テクノロジーのドローン警備(無人化+心理的抑止)、トリニティーのSIM対応ソーラー防犯カメラ(完全独立型)という3つの技術は、それぞれ異なるアプローチで防犯を強化し、防御体制を構築できます。

2026年春に旭テクノロジーの実証実験報告書が取りまとめられることで、ドローン警備のコストと実用性が明確になり、普及の判断材料が揃います。

EPC事業者として、新設案件での防犯対策の初期組み込み、既設案件への防犯強化提案、警備会社との連携、自治体との連携、O&Mサービスとしての防犯パッケージという、複数のアプローチで盗難対策市場に参入する機会が開かれています。