みなさん、こんにちは!
今日は、スキー場における再生可能エネルギー導入の取り組みについて共有します。
「この問題を解決しない限りスキー場の未来はない」という強い危機感から、全国のスキー場が再エネ化を進めています。
人工降雪機やリフトによる大量のCO2排出が気候変動を加速させ、結果として積雪減少によりスキー場自身の存続が危ぶまれるという「負のスパイラル」。
この構造的ジレンマを断ち切るため、地熱発電、小水力発電などの地産地消型エネルギーへの転換が各地で進んでいます。
進む気候変動と減少する積雪量
気象庁が2025年9月に発表した寒候期予報によると、この冬(12〜2月)の気温は全国的にほぼ平年並みで、降雪量も北日本・東日本の日本海側はほぼ平年並みとの見通しです。
年々減少してきてはいるものの、スキー・スノーボードを楽しむ420万人にとって、待望の冬が到来します。
しかし、長期的な傾向は深刻です。
| 日本の平均気温 | 100年あたり1.40℃上昇 (世界平均の0.77℃を大きく上回る) |
| 2024年の日本の平均気温 | 基準値から+1.48℃で統計開始以降最高値 |
| 国連環境計画の予測 | 今後10年以内に世界の気温が産業革命以前より1.5℃上昇する可能性が高い |
| 現行政策を続けた場合 | 今世紀末には2.8℃上昇 |
国内の降雪状況を見ると、1962年以降、日本海側の各地域(北日本、東日本、西日本)では年最深積雪に減少傾向が現れています。
また、北日本以外の日本海側では、1日の降雪量が20cm以上となった年間日数が減少しています。気象庁は、将来も降雪・積雪量は減少すると予測しています。
このままでは、スキーを楽しむことができなくなり、スキー場運営会社にとっても営業可能日数の減少などにより、事業継続が難しくなります。
スキー場が抱える「加害者であり被害者」という構造的ジレンマ
スキー場が直面する課題は、極めて象徴的な構造を持っています。
スキー場の運営に伴い、人工降雪機の稼働やリフトの運転により多くのCO2が排出されています。加えてスキー場の各種施設では相当量の電力を消費しています。
とりわけ人工降雪機はリフト以上に電力消費が大きく、スキー場に必要な雪づくりそのものが地球温暖化を進める要因の一つとなっています。
つまりスキー場は、
- 人工降雪機やリフトで大量のCO2を排出し
気候変動を加速させる「加害者」 - 結果として積雪減少により営業日数が減少し
事業継続が困難になる「被害者」
という二重の立場に置かれています。
雪不足を補うために人工降雪機を稼働させれば、さらなる気候変動を招き、ますます雪が降らなくなる。この負のスパイラルを断ち切らない限り、スキー場に未来はありません。
「この問題を解決しない限りスキー場の未来はない」
こうした危機感から、再生可能エネルギーの導入を進めるスキー場・企業が出てきています。
各地で進む再エネ導入の具体例
全リフトを再エネ化し、年間1,000トン以上のCO2削減
所有する全てのリフトの再エネ化を完了し、年間1,000トン以上のCO2排出削減を達成した事例があります。
地熱発電で電力100%を賄う東北のスキーリゾート
東北のあるスキーリゾートは、複数の地熱発電所から電力供給を受け、ホテルとスキー場で必要な電力を100%賄っています。
山の地形を活かした小水力発電
山の傾斜や沢の水を活用した小水力発電の取り組みも進んできています。
例えば、ゲレンデ上部に沢からの取水口を設け、ゲレンデ中腹脇に水車を設置して発電し、スキー場内の施設で活用する事例があります。
自社事業全体で電力自給を実現
大手電力会社と折半で出資し合同会社を設立し、スキー場のみならずキャンプ場や土木建築なども含めた自社事業全体で必要な全ての電力を自給している会社もあります。
福島のリゾート会社が小水力発電に大規模投資
福島県猪苗代町のDMC aizuは、小水力発電事業に出資し、福島県・山形県で大規模な開発計画を立てています。
3年以内に約10カ所・合計約4MW、5年以内に約30カ所・合計約10MWを開発予定です。
発電した電力をスキー場などで利用し、余剰電力を売電する計画です。
これは豊富な水資源を持つ福島の地域特性を最大限活かした取り組みと言えます。
地域資源を活用した「適地適材」のアプローチ
スキー場の再エネ導入で注目すべきは、地域の自然資源を最大限活用した「適地適材」のアプローチです。
スキー場は山間部に立地するため、以下のような地域資源へのアクセスに優れています。
| 地熱 | 火山地帯に近いリゾート地で活用可能 |
| 小水力 | 山間部の沢や河川を活用 |
| 風力 | 山岳地帯の風況を活用 |
これらは太陽光に比べて季節変動が少ない安定電源を確保できる優位性があります。
特に、冬季に電力消費が集中するスキー場にとって、発電量が安定していることは重要です。
気候変動の緩和に向けた再生可能エネルギーの地産地消を進める取り組みであり、地域の関係者の理解を得ながら、同様の動きが各地のスキー場に広がることが期待されます。
スキー場だけではない、積雪減少の広範な影響
積雪減少の影響はスキー場にとどまりません。
積雪が減ると春の融雪流入が細り、ダム貯水量が下がりやすくなります。
その結果、
- 上水道・工業用水・農業用水の供給力が低下
- 渇水リスクが高まる
特に融雪を主な水源とする地域では、冬の降水が雪ではなく雨になる割合の増加や融雪時期の前倒しにより、河川流量の季節パターンが変わり、水田管理や灌漑計画に影響します。
また、積雪期間の短縮は地表の露出時間を延ばし、植物の生育時期や土壌水分を変化させます。
その結果、
- 植生が変わり、雪田植生や高層湿原などの生態系の衰退・消失
- 野生鳥獣の生息域が広がり、農林業被害の増加
- 融雪出水を合図に行動する河川生物のライフサイクルへの影響
積雪量や融雪出水の時期・規模の変化は、生態系全体に連鎖的な影響を及ぼします。
「スキーの持続可能性」が問う私たちの選択
私たち個人が雪の量そのものを直接変えることはできませんが、気候変動の緩和や自然環境への負荷低減に資する選択は可能です。
- 化石燃料の使用削減
- 省エネルギーの実践
- 自家用太陽光発電の導入
- 持続可能な製品・サービスの選択
- 身近な人への情報共有や対話
420万人のスキー・スノーボード人口にとって、スキー場の再エネ化は単なる企業の取り組みではなく、自分たちが楽しむレジャーの持続可能性に直結する問題です。
消費者が「再エネ化を進めるスキー場を選ぶ」という行動を取れば、業界全体の転換を加速させる強力な推進力になります。
スキー場のウェブサイトで再エネ導入の取り組みを確認したり、再エネ比率の高いスキー場を優先的に選んだりすることで、市場を通じた変革を後押しできます。
再エネ事業者にとっての新市場機会
スキー場の再エネ導入は、再エネ事業者にとって新しい市場機会を示唆しています。
小水力発電の設計・施工ノウハウ
福島のDMC aizuが3年で約4MW、5年で約10MWという大規模開発計画を立てているように、小水力発電の需要が拡大しています。
山間部の豊富な水資源を活用できる地域では、地域事業者の立地優位性を活かせる分野です。
スキー場特有の電力需要パターンへの対応
スキー場は冬季に人工降雪機とリフトで大量の電力を消費する一方、夏季はキャンプ場など別の用途に転換する施設もあり、季節変動の大きい需要に対応する必要があります。
- 蓄電システムの最適設計
- 地域マイクログリッドの構築
- 夏冬の需要変動を考慮した発電・蓄電計画
自社事業全体の電力自給モデルの支援
スキー場だけでなくホテル、キャンプ場、土木建築など複数事業を持つ企業に対し、FIT非依存で電力を自給するモデルを提案できれば、長期的な関係構築につながります。
地域資源の最適活用提案
地熱、小水力、風力など、各スキー場の立地条件に応じた最適な再エネ技術を組み合わせる提案力が差別化要因となります。
- 地形や水資源の現地調査
- 複数の再エネ技術の組み合わせ提案
- 投資回収期間を含めた経済性分析
スキー場の再エネ導入は、「この問題を解決しない限りスキー場の未来はない」という切迫した危機感に基づく、存続をかけた必然的選択です。
人工降雪機とリフトによるCO2排出が気候変動を加速させ、その結果として積雪減少により自らの事業基盤が失われるという負のスパイラルを断ち切るには、再エネへの転換しか道はありません。
スキーシーズンの到来にあたり、スキー場のサステナビリティの取り組みや、気候変動と生態系のつながりに目を向け、日々の行動を見直してみるのも一案でしょう。
そして、再エネ化を進めるスキー場を積極的に選ぶことで、私たち消費者も業界の変革を後押しできます。
