みなさん、こんにちは!
今日は、環境省が2026年度以降の脱炭素先行地域の新規採択を停止するというニュースと、千葉県市川市が挑む既設賃貸集合住宅の脱炭素化という先進事例について共有します。
目標の100件到達を前に新規採択が停止される一方で、既に選定された88地域(119市町村)では「脱炭素ドミノ」の起点となる先進的な取り組みが進んでいます。1自治体あたり5年間で最大50億円が交付されるため、今後5年間にわたる確実な事業機会が存在します。
特に注目すべきは、市川市が既設賃貸集合住宅318棟5,286戸への太陽光導入という前例のない挑戦に乗り出した点です。「オンサイト特定住居方式」という新手法により、棟内一部住居のみに電力を分配し、全住戸合意を不要にする画期的な仕組みを構築しました。
これは、太陽光設置率わずか0.2%という既設集合住宅市場の巨大な未開拓ポテンシャルを示しており、EPC事業者にとって新たな事業領域への参入機会を提供しています。
脱炭素先行地域とは:2030年前倒し実現を目指す100地域
まず、脱炭素先行地域の制度について理解する必要があります。
制度の概要
目的
- 政府目標(2050年カーボンニュートラル)を前倒し
- 2030年度までに脱炭素化実現を目指す
- 他地域に広がる「脱炭素ドミノ」のモデルとなる
支援内容
- 1自治体あたり5年間で最大50億円を交付
- 再エネやEVの導入などを集中的に支援
目標
- 2030年度までに少なくとも100地域を選定
これまでの経緯
募集開始
- 2022年1月:第1回募集開始
現在の状況
- これまでに選定:全国88地域(119市町村、90提案)
- 第7回募集で100件到達見込み
2026年度以降
- 新規採択を停止
2026年度以降の新規採択停止:その意味
環境省は2026年度以降、脱炭素先行地域の新規採択を停止すると発表しました。
目標達成による区切り
停止の理由
- 目標としていた100件に今年度中(第7回募集)に到達する見通し
- 政策目標を達成
今後の方針
- これと併せて脱炭素社会実現に向けた
国民運動「デコ活」の取り組みを検証
空白県の存在
現時点で、計画提案が1件もない都道府県は次の7都県です。
- 東京都
- 石川県
- 和歌山県
- 徳島県
- 香川県
- 大分県
- 佐賀県
脱炭素先行地域評価委員会は第7回募集にあたって、次のようにコメントしています。
先行地域は「『実行の』脱炭素ドミノ」の起点であり、各都道府県にあることが望ましく、引き続き空白県からの積極的な応募を期待する。
一見すると市場縮小のようにも見えますが、実態は異なります。
既選定88地域の重要性
- 今後5年間にわたり最大50億円の交付金を活用
- 財源が確保された確実な事業機会
- 2030年度までの脱炭素化実現に向けた継続的なプロジェクト
「脱炭素ドミノ」のモデル創出
- 先進性・モデル性を重視
- 成功事例の横展開により、選定地域以外にも波及
新規採択停止後も、選定済み88地域での事業展開と、そこで生まれた成功モデルの横展開という二段階の市場機会が存在します。
市川市の挑戦:既設集合住宅という難題
千葉県市川市は、環境省の「脱炭素先行地域」に選定された取り組みで、前例のない挑戦に乗り出しています。
市川市の計画概要
対象地域
- 市の南部に位置する妙典地域
- 子育て世帯向けの賃貸集合住宅が多い
- 都心から20km圏内、人口約50万のベッドタウン
計画内容
- 地域内318棟5,286戸の既設集合住宅の屋根に
太陽光発電を最大限導入(約1,700kW) - 約半数の2,530戸で窓や扉の断熱改修を実施
- 省エネ化を推進
狙い
- 脱炭素と子育て世代の定住促進という地域課題の同時解決
市川市カーボンニュートラル推進局の高浜伸昭課長は次のように語っています。
現在、市の重点課題として、カーボンニュートラルの実現とともに、子育て世代の定住促進と出生率向上も挙げられています。対象地域では子育て世代の市外への転出が多く、昨年実施したアンケートの結果では、住宅の断熱に6割が何らかの不満を抱えていました。今回の計画を実施することで、脱炭素だけでなく子育て世代の定住という課題の解決にもつながると考えました。
脱炭素と地域課題の同時解決
- 環境省が脱炭素先行地域の「類型」として挙げている中心的な考え方
- 「クルマの両輪」のようにうまく回れば、住民の参加意識が高まる
既設集合住宅市場の巨大な未開拓ポテンシャル
市川市の計画が示すのは、既設賃貸集合住宅という巨大な未開拓市場の存在です。
環境省の2021年の調査では、次のような現状が明らかになっています。
太陽光設置率の比較
- 集合住宅:わずか0.2%
- 戸建て:11.6%
- 約58倍の差
市川市の対象地域でも、賃貸物件の太陽光発電設置率は5%でした。
この市場が開拓されてこなかった理由は明確です。
1.全住戸合意の困難さ
- 従来の「オンサイト分配方式・一括受電方式」では
全入居者から設置合意を取り付ける必要 - 賃貸住宅では入退去が頻繁で、合意形成が困難
2.1戸あたりの供給量が少ない
- 屋根面積に対して戸数が多い
- 大型パネルを設置できなければ、1戸あたりの再エネ供給量が少なくなる
- ビジネス成立性に疑問
3.オーナーの経済的メリットが不明確
- 断熱改修で恩恵を受けるのは主に入居者
- オーナーが自己資金を投じるメリットが見いだしづらい
「オンサイト特定住居方式」という画期的な突破口
市川市が導入する「オンサイト特定住居方式」は、これらの障壁を突破する画期的な仕組みです。
従来方式との違い
従来のオンサイト分配方式・一括受電方式
- 発電電力を棟内の全住居に分配
- 全住戸の電力料金を削減
- 全住戸の設置合意が必要
- 大型パネルが必要で、設置できる物件に限りがある
- 仮に家賃を引き上げるなら投資回収効果に優れる
新しいオンサイト特定住居方式
- 発電電力を棟内の特定住居のみに分配
- 特定住戸に限って電力料金を削減
- 特定住戸のみの合意で設置可能
- 屋根面積に応じて十分な電量を供給できる範囲で特定住居の設定が可能
- 仮に家賃を引き上げるなら投資回収に時間がかかる
高浜課長は次のように説明します。
屋根の面積から設置できる太陽光パネルの量に応じて、逆算してそれに見合った戸数にだけ電力を分配することが可能になります。極論すれば、オーナーさん自身の住戸やエレベーター等の共有部への導入から始めてもらうこともできると考えています。
柔軟な導入パターン
- オーナー自身の住戸のみ
- 共有部(エレベーター、廊下など)のみ
- 一部の住戸(屋根面積に応じて)
- 段階的な拡大(最初は一部、後から追加)
この柔軟性が、集合住宅市場の開拓を可能にする鍵となります。
断熱性能公表制度:資産価値向上の「見える化」
市川市の計画のもう一つの柱は、断熱性能の促進です。
断熱改修が進まない現状
国内の現状
- 国の断熱性能基準に適合している既設住宅:わずか18%(2022年度時点)
- 特に賃貸集合住宅では進んでいない
進まない理由
- 断熱改修で経済面や健康面の恩恵を受けるのは主に入居者
- オーナーが自己資金を投じる経済的メリットが見いだしづらい
市川市が考案したのは、市の条例に基づいた断熱性能の公表制度の新設です。
制度の仕組み
- 個々の賃貸物件ごとの断熱性能情報を市が収集
- ホームページなどで公表
- 不動産仲介業者は、顧客に事前にこの情報を示すことがルール化
狙い
- 断熱改修による資産価値の向上を「見える化」
- 入居者が物件選択時に断熱性能を判断基準にできる
- オーナーが断熱改修に投資するインセンティブを創出
高浜課長は次のように説明します。
入居者さんからすれば、物件を選ぶ際には断熱性能を知る機会がなく、入居後に「ちょっと寒いな」などと気づくことが多いでしょう。もし、入居者側に家賃が少し高くても断熱性能がいい物件を選ぶという判断基準ができてくれば、オーナー側もそれを受けて、物件の断熱改修に優先的に投資するようになる。そうした変化の好循環を起こすきっかけになればと考えています。
断熱性能の判定基準として、国交省の「省エネ部位ラベル」の取得を基準にする方法が考えられています。
省エネ部位ラベルとは
- 既設建物の省エネ性能をリフォームなどで
部分的に向上させた際に表示できるラベル - 国のルールでは表示は任意
市川市の独自ルール化
- 市の環境保全条例に基づいた独自規則を新設
- ラベルの有無を公表することをルール化する方針
断熱改修の主な対象として想定されているのは、集合住宅で室温への影響が特に大きい窓のリフォームです。
具体的な改修内容
- アルミサッシ → 樹脂サッシに変更
- 単層ガラス → 複層ガラスに変更
導入タイミング
- 転居時
- 居住中の「住みながら断熱」も推進
子育て世帯への市独自の家賃補助
さらに、市川市は次の独自支援も実施します。
- 子育て世帯について
- 断熱性能が高い住居への入居者に対して実施
- 計画が目指す「子育て世代の定住促進」にもつなげる
地域プレイヤーとの連携:農協人脈という「火付け役」
市川市の計画がユニークなのは、地域への影響力が強い地元農協などに「火付け役」としての活躍が期待されていることです。
元農家オーナーという背景
対象地域の歴史
- 1999年に土地区画整理事業により住宅地化
- その前は農地が広がっていた
- 賃貸集合住宅のオーナーには元農家が多い
- 地元農協の人脈や影響力が今も生きている
共同提案者としての参画
計画の推進体制
- 地元農協
- 地域と縁が深いハウスメーカー2社
- これらが共同提案者として参画
初期段階の戦略
- こうしたネットワークを生かして先行事例をつくる
- 元農家オーナーへの働きかけに地元農協の人脈を活用
市民団体との連携
官民連携の取り組み
- 地元の複数の市民団体と千葉商科大学が連携
- 「いちかわCNネットワーク」を組織
- 市の計画と連動した勉強会や事業者への講習会を実施
- 官民が連携して実施の機運を高める
「脱炭素ドミノ」のモデルとなれるか
気候政策シンクタンク「クライメート・インテグレート」の平田仁子代表理事は、市川市の環境施策推進参与として今回の計画にも立案段階から関わっています。
平田氏は次のように語りました。
前例のない取り組みになるので、実際の最初の導入例をつくっていくと同時に、太陽光発電の設置や断熱改修によってどのようなメリットが得られるのかを測定し、可視化していけると良いと考えています。そうした裏付けとなるデータが強化されていくことで、オーナーと居住者の双方がメリットを享受できることが広く共有されていけば、地域の人たちの間により波及し、好事例になっていくはず。まずは、そうした状態を目指したいと考えています。
実現に向けた課題
- 実際の最初の導入例の創出
- メリットの測定と可視化
- データによる裏付けの強化
- オーナーと居住者双方のメリットの共有
将来的には、市内の他の地域や市外(他の自治体)への展開が期待されています。
集合住宅の省エネ改修が進んでいく「脱炭素ドミノ」の最初のピースとなれるのか。今後の展開に要注目です。
EPC事業者にとっての5つの戦略的機会
脱炭素先行地域と市川市の事例は、EPC事業者に次の戦略的機会を提供しています。
既選定88地域への組織的アプローチ
既に選定された88地域(119市町村)は、今後5年間で最大50億円の交付金を活用します。
アプローチ戦略
- 各地域の計画内容を精査
- 太陽光導入が含まれる地域を特定
- 組織的にアプローチ
- 財源が確保された案件を獲得
空白県への注目
- 7都県(東京、石川、和歌山、徳島、香川、大分、佐賀)
- 選定数が1提案の都道府県
- 今後追加選定の可能性もあり、情報収集を継続
既設集合住宅向けソリューションの開発
市川市の「オンサイト特定住居方式」は、既設集合住宅市場を開拓する突破口となる可能性があります。
市場のポテンシャル
- 全国の集合住宅で太陽光設置率わずか0.2%
- 戸建ての11.6%と比較して約58倍の差
- 巨大な未開拓市場が存在
提案パッケージの開発
- 一部住居のみへの電力分配システム
- 共有部への優先供給
- オーナー自宅への導入
- 段階的拡大プラン
柔軟な提案の価値
- 全住戸合意が不要
- 小規模から開始可能
- 投資リスクの低減
断熱改修との一体提案
市川市が断熱性能公表制度と太陽光導入を組み合わせているように、太陽光単体ではなく断熱改修との一体提案が資産価値向上の説得力を高めます。
一体提案の内容
- 窓のリフォーム(アルミサッシ→樹脂サッシ、単層→複層ガラス)
- 太陽光発電設置
- エネルギーコスト削減効果の可視化
- 資産価値向上の定量的評価
オーナーへの訴求
- 断熱性能公表により差別化
- 入居者満足度の向上
- 家賃設定の柔軟性
- 長期的な資産価値維持
地域プレイヤーとの連携体制構築
市川市では地元農協とハウスメーカー2社が共同提案者として参画しています。
連携すべき地域プレイヤー
- 地元農協
- 建設業者
- 不動産業者
- 地域金融機関
- 市民団体
- 大学・研究機関
連携の意義
- 地域に根差した案件組成
- 地元ネットワークの活用
- 信頼関係の構築
- 「地域経済循環への貢献」という評価基準への対応
成功事例の横展開支援:「コンサルティング型EPC」へ
市川市の計画が成功すれば、他の自治体への横展開が期待されます。
新しいビジネスモデル
- 先行事例での知見蓄積
- 他地域での類似プロジェクト立ち上げ支援
- 「コンサルティング型EPC」への拡張
提供できる価値
- 制度設計ノウハウ
- 地域プレイヤーとの連携方法
- オーナー・入居者への説得手法
- データ測定・可視化の方法
- 失敗事例からの学び
「脱炭素ドミノ」のモデル創出
- 全国への展開可能性
- スケールの大きなビジネス機会
従来型EPCを超えた提案力が問われる
脱炭素先行地域と市川市の事例が示すのは、従来型の野立て太陽光を超えた提案力の重要性です。
求められる新しい能力
技術面
- 既設集合住宅への設置技術
- 一部住居のみへの電力分配システム
- 断熱改修との統合設計
事業設計面
- オーナー・入居者双方にメリットがある事業スキーム
- 資産価値向上の定量的評価
- 投資回収シミュレーション
地域連携面
- 地域プレイヤーとのネットワーク構築
- 地域課題との同時解決の提案
- 住民参加意識の醸成
制度活用面
- 脱炭素先行地域の交付金活用
- GX戦略地域との組み合わせ
- 省エネ法改正への対応
- 自治体独自制度の活用
5年間で最大50億円という確実な事業機会
環境省が2026年度以降の脱炭素先行地域の新規採択を停止することは、一見すると市場縮小のようにも見えます。
しかし実態は、既に選定された88地域(119市町村)が今後5年間にわたり最大50億円の交付金を活用するという、財源が確保された確実な事業機会の存在です。
市川市が示した可能性
- 既設賃貸集合住宅という巨大な未開拓市場
- 太陽光設置率わずか0.2%というポテンシャル
- 「オンサイト特定住居方式」という画期的な突破口
- 断熱性能公表制度による資産価値の「見える化」
- 脱炭素と地域課題の同時解決という三位一体モデル
これらの先進的なアプローチは、他地域への横展開可能性が極めて高く、「脱炭素ドミノ」のモデルとして全国に波及する可能性を秘めています。
EPC事業者にとって重要なのは、従来型の野立て太陽光を超えた提案力です。既設集合住宅市場の開拓、断熱改修との一体提案、地域課題との同時解決——こうした先進的なアプローチを学び、自社の事業領域に取り込むことが、2027年以降の成長の鍵となります。
